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For Letter Words

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For Letter Words



 ロシアからイギリスに、初めて届いた手紙は、一体何をトチ狂ったか、フランス語で認めてあった。

 期待と緊張に胸を高鳴らせながら、封筒の端を慎重にペーパーナイフで切り裂き、そおっと、便箋を取り出したのだ。それなのにその便箋を開いてみて、ぎょっとして、次の瞬間には破り捨ててしまいたい衝動に駆られた。
 くしゃくしゃに丸めたそれを、イギリスは結局、丁寧に丁寧に伸ばし直して、自分に対する山のような言い訳を胸の裡で量産しながら、今、読んでいる。
 本人同様少々丸い、素朴な手跡で綴られたその内容は、まず無難でありきたりな時候の挨拶に始まっていた。ロシアの癖に、随分平凡じゃないかと罵りながら読み進めるが、時候の挨拶の次は、先日の会談と、その後イギリスの出した手紙に対する、常識的で上っ面な礼、そしてまさか本当に手紙をくれるとは思わなかった、と言う揶揄とも驚きとも解らぬ一文だった。
 頭の斜め上辺りに、小さな苛々が滞留する。その苛々を振り払うように手紙から目を上げると、自分が書斎の椅子にも掛けず立ったままだったのに気付いて、余計に腹が立った。書斎机から少し離れた安楽椅子に腰を下ろし、また立ち、脇机に手紙を置く。そして呼び鈴を鳴らして、小間使いに紅茶を用意させた。
 馥郁たる紅茶の香りで肺と心を満たしてから、もう一度落ち着いてロシアの手紙を手に取った。厚みのある、雪のように白い紙は、細かな皺を刻んで毛羽立ち、濃藍のインクをふんわりと滲ませている。
 二枚目は、ロシアの庭のことを相談する内容だった。なかなか上手く花が咲かないとあり、最後には助言を求めている。単純だが、尖っていた気持ちが少しだけ和らいだ。その調子で三枚目を繰ると、三枚目にはそれじゃあまたね、という簡単な一言と、日付とサインだけが記されていた。
「おいおい、これだけかよ!」
 思わず口にしてしまう。炙り出しでも仕込んでいやしないかと燭台に翳してみたが、便箋の裏に煤と焦げ痕が着いただけに終わった。深呼吸し、カップに満たされたミルクティをぐっと呷ると、イギリスはペンを取り、猛然と机に向かった。


 奴とだけは絶対に仲良くなることはない、と思っていた。今でもまだ少し思っている。フランスに仲介され、三ヶ国で手を組むことが決まった時も、自慢の眉毛を怒らせて腕組みし、全身で警戒の態勢をとったイギリスを、ロシアは見下すように笑ってみていた。仲介したフランスは、呆れたようにイギリスとロシアの両者を眺めていた。
 嫌味と皮肉と、最後にはもう、堂々と罵りの応酬を重ねていると、ふと、フランスがひらめいた、と叫んでぽんと手を打ったので、今しもロシアに殴りかからんとしていたイギリスは、勢いをそがれてつんのめった。怪訝そうに首を傾げるロシアと、ぎりぎりと睨みつけるイギリスの間で、フランスは多分意図的に、のんびりと、思いもよらない提案をしてきた。
「お前達、ちょっとの間でいいからさ、文通しな」
「はあ?」
「手紙? 僕が? イギリス君と? なんで?」
 ロシアが困惑気味に眉尻を下げた。掴みかかる先をフランスに変更しようとしたイギリスに、フランスはこれ以上むかつく顔はないと言う表情で、言った。
「イギリスいっつも俺に自慢してるじゃない? 俺ほどよく手紙を書ける奴はいないって。ああ、でもまあロシアが相手じゃあ、流石のイギリス様も、ご自慢の手紙はちょおっと無理なのかなあ?」
これは、罠だ。解ってはいた。いたのだが、その言いようが余りにもむかついた上に、追い討ちがかかった。
「無理だよねえ、ま、解るよ。お前も本当は、そこそこ普通の奴だもの。向き不向きがあるし? 無理して書くことはないよ。俺たち長い人生、挫折もあるよ」
「てめえ! 何が挫折だコラ! ロシアが相手だろうがドイツが相手だろうが関係ねえ! 貰った途端に一言だって文句の言えねぇ完っ璧な手紙書いてやるに決まってんだろ!」
「だってさ、ロシア。お前どうする?」
「ええー。わざわざ不愉快な思いをするために、手紙のやり取りするのって、不毛だと思うけど」
「うるっせぇ見てろてめぇが思わず感動して返事が書きたくなる手紙出してやるから!」
口にした瞬間、しまった、と後悔したが、もう遅かった。


 兎に角自分の国に帰ってから、悩んで悩んで悩み抜いて書いた手紙に対する返事が、これ、このざまである。いや、あのロシアから返事が来ただけ、辛くも一勝と言うことなのだろうか。短い文面は、よくよく読めば、ロシア自身もイギリスに対して何を書けばいいのか、筆先を迷わせているようにも見える。まあそうだよな、と小さく呟いて、イギリスは苦笑した。自分と彼との間に共通の話題など殆どない。苦し紛れに庭のことなど持ち出しているが、ロシアが造園や植物に興味があると言う話は、聞いたことがない。
 ロシアなりにイギリスに対する無い知識を振り絞ったのだろうと思えば、このそっけない文章も許してやれる気がした。
作品名:For Letter Words 作家名:東一口