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For Letter Words

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 ロシアから届いた二通目の手紙は、やはりフランス語だった。

 書斎に持ち込む間も惜しく、小間使いからこの一ヶ月待ちに待った手紙を受け取ると、ペーパーナイフも使わずその場でびりびりと封を破る。
 常ならぬイギリスの様子に、目を丸くする小間使いをぐっと睨みつけるが、長年イギリスの側に仕えている老女は、全く怯む様子を見せず、寧ろやれやれいつものアレですね、とでも言いたげな顔をして、使用人廊下に下がっていった。
 そして取り出した中身は、またフランス語だった。落胆で折れそうになる心と膝を叱咤しながら、それでも目を通す。時候の挨拶に、庭と植物に関する助言への簡単な礼が一枚目にあった。やはり、と思うと同時に、だから他にもっと、書くことがあるだろう、とめくった二枚目を見て、イギリスは絶句し、そして漸く肩の力を抜いて相好を崩した。
 二枚目には、こんな花が咲きましたという一文を添えて、数種類の花のスケッチが所狭しと描かれていた。それらはきちんと彩色までしてある力作で、絵に関してはちょっと目が肥えている、と自認するイギリスの目から見ても、決して上手ではないが、一生懸命描いたのが手に取るように解る。
 何だ、やればできるんじゃねぇか、とにやにやしながら玄関ホールをてくてく行ったり来たりして、イギリスは便箋に咲いた花の一つ一つを、じっくりじっくりと眺めた。どれもこれも、前回イギリスが助言してやったものばかりだ。短期間で花を咲かせる、お手軽な花ばかりだが、その筆致からロシアの喜びようが目に浮かぶようだった。まさか本当に助言を容れるとは、ちょっと予想外の展開だ。あの冷たい北の土地でよくもやった、と感心さえする。実は花が好きだというのなら、今度実際に会う時には、自慢の種を幾つか、分け与えてやるのも悪くない。
 満足して二枚目を後ろへ回すと、今度は打って変わってよそよそしい言葉遣いで、ロシアが英語に不慣れなこと、そしてイギリスがロシア語に「不堪能」(とわざわざ括弧書きで強調してあった)であることから、フランス語で手紙を書くのが、お互いの理解のために最適であろう、と述べられていた。そう書かれると確かにその通りで、イギリスとしては黙らざるを得ない。
 最後はまた、唐突に結びの言葉とサインで終わっていた。
 暫くの間、イギリスはその手紙を睨みつけたまま、玄関ホールに立ち尽くした。が、不意に顔を上げると、ある決心を秘めて、図書室へ飛び込んだ。
作品名:For Letter Words 作家名:東一口