365×
今年の冬は寒波の影響で、年末年始は酷い冷え込みと雪の日々だった。
ホワイトクリスマスになったのはそれなりに嬉しかったりもしたが、数日後にはそれも吹き飛んでしまった。
実家に帰省する時がまあ酷い雪で、寒いわ電車が止まるわで、昼前に出たというのに家に着いたのはとっくに日が沈んだ後。
駅まで迎えに来てくれた両親が、困ったように笑いながら「災難だったね」と言ったのを覚えている。
それでも実家でのんびりした日々を過ごした後は、もう直ぐ始まる学校を恨めしく思いながら実家を後にして東京に戻った。
それが、昨日までのこと。
パソコンの画面に表示された時計によれば、あと数分で日が変わる。
もうすぐ、一月六日。
明日は冬休み最後の日で、夜更かしができるのも今日までで。
だけど、一番大切なのはそこじゃなくて。
明日は、
(………臨也、先輩)
明日は、臨也先輩と付き合い始めて一年になる日だ。
一年前の、一月六日。
もうとっくに日も沈んで、僕は明日からの学校を憂鬱に思っていた。
高校生になって初めての冬休みは可もなく不可もなくな日々だった。
そんな日々の、最後の日に。
僕の部屋に、チャイムが鳴り響いた。
「……?」
こんな時簡に誰だろう。
僕の家に来る人なんて限られてる。
正臣、かな。
大家さん?
色んなことを考えながら、鍵を開け、扉を開けた。
「はーい……っ、臨也…先輩?」
「や、ぁ…帝人君」
玄関を開けた先、そこにいたのは紛れもなく、あの臨也先輩だった。
先輩がどうして僕の家を知っているのか不思議だったが、その疑問は直ぐに霞んでしまう。
何時も湛えた余裕さはそこにはなく、ぜえぜえと息は荒く冬にもかかわらず汗を掻いていた。
でも眼光の強さは相変わらずで、扉に手を突きながら僕を真っ直ぐ見据えてくる。
そんな、あまりにも現実味を感じない光景に、僕は戸惑って満足に言葉も言えずうろたえるしかなくて。
それでも、とにかく何か訊ねようとして口を開いたら、一秒早く臨也先輩が先に話し始めた。
「みか、ど、くん」
「っ、…せん、ぱ……どう、したんですか?」
未だに荒い息を整えながら、呼吸の合間に名前を呼ばれる。
それにさえどきりとしてしまう自分が恨めしい。
真剣な眼で、そんな声で、一体何を伝えようとしているのか。
「あ、あの…」
「ごめん、黙って聞いてくれる?」
「え、」
「俺さ、」
帝人君のことが、好きなんだ
一思いに吐き出されたその言葉は、しっかりと僕の鼓膜を震わせて脳に浸透する。
何回も何回も頭の中で反芻する、声。
僕が、好き?
(ぇ………えぇ!?)
嘘、嘘うそ、嘘だ、だって、あの先輩が僕のことを。
だって先輩にとって僕はただの興味で、暇潰しで、それ以上でもそれ以下でもなかったはず、で。
「…う、そ」
「嘘じゃない」
「だって、先輩は……」
「もう、君を"人間の一人"として見れないんだ」
「っ、」
「好き、帝人君が好き。だから、俺と一緒にいて欲しい」
僕より大きな先輩の手が、僕の手をぎゅうっと包んでくる。
冷たくて、でも心地良い。
赤色は僕を捉えて離さないから、視線を逸らすこともできなくて。
(ずるい、)
(先輩は、ずるい)
何で今頃言うの、とか。
今までそんな風に相手にしてくれなかったのに、とか。
信じることなんてできない、とか。
とか、とか、とか、でも。
そんなこと全部、どうでもいいって思いえるぐらい嬉しくて。
無意識の内に僕は、先輩の腰に抱きついていた。
「っ、み、帝人、くん…?」
「……先輩は、ずるいです」
「……、」
「ずるいです、卑怯です」
「……うん」
「でも、」
胸元に埋めていた顔を上げた。
先輩の瞳とかち合って、吸い込まれそうだと思った。
本当はずっと、惹かれていたんだ。
先輩の全てに、ずっと、ずっと――
「すき、です」
「っ、」
「好きです、僕も先輩のことが」
はっきり言ったつもりだった僕の声は馬鹿みたいに小さくて。
ちゃんと届いたか不安だったけど、先輩は。
「……ありがとう、帝人君」
臨也先輩は、今まで見たことないような優しい笑顔で、僕を抱きしめ返してくれた。
ホワイトクリスマスになったのはそれなりに嬉しかったりもしたが、数日後にはそれも吹き飛んでしまった。
実家に帰省する時がまあ酷い雪で、寒いわ電車が止まるわで、昼前に出たというのに家に着いたのはとっくに日が沈んだ後。
駅まで迎えに来てくれた両親が、困ったように笑いながら「災難だったね」と言ったのを覚えている。
それでも実家でのんびりした日々を過ごした後は、もう直ぐ始まる学校を恨めしく思いながら実家を後にして東京に戻った。
それが、昨日までのこと。
パソコンの画面に表示された時計によれば、あと数分で日が変わる。
もうすぐ、一月六日。
明日は冬休み最後の日で、夜更かしができるのも今日までで。
だけど、一番大切なのはそこじゃなくて。
明日は、
(………臨也、先輩)
明日は、臨也先輩と付き合い始めて一年になる日だ。
一年前の、一月六日。
もうとっくに日も沈んで、僕は明日からの学校を憂鬱に思っていた。
高校生になって初めての冬休みは可もなく不可もなくな日々だった。
そんな日々の、最後の日に。
僕の部屋に、チャイムが鳴り響いた。
「……?」
こんな時簡に誰だろう。
僕の家に来る人なんて限られてる。
正臣、かな。
大家さん?
色んなことを考えながら、鍵を開け、扉を開けた。
「はーい……っ、臨也…先輩?」
「や、ぁ…帝人君」
玄関を開けた先、そこにいたのは紛れもなく、あの臨也先輩だった。
先輩がどうして僕の家を知っているのか不思議だったが、その疑問は直ぐに霞んでしまう。
何時も湛えた余裕さはそこにはなく、ぜえぜえと息は荒く冬にもかかわらず汗を掻いていた。
でも眼光の強さは相変わらずで、扉に手を突きながら僕を真っ直ぐ見据えてくる。
そんな、あまりにも現実味を感じない光景に、僕は戸惑って満足に言葉も言えずうろたえるしかなくて。
それでも、とにかく何か訊ねようとして口を開いたら、一秒早く臨也先輩が先に話し始めた。
「みか、ど、くん」
「っ、…せん、ぱ……どう、したんですか?」
未だに荒い息を整えながら、呼吸の合間に名前を呼ばれる。
それにさえどきりとしてしまう自分が恨めしい。
真剣な眼で、そんな声で、一体何を伝えようとしているのか。
「あ、あの…」
「ごめん、黙って聞いてくれる?」
「え、」
「俺さ、」
帝人君のことが、好きなんだ
一思いに吐き出されたその言葉は、しっかりと僕の鼓膜を震わせて脳に浸透する。
何回も何回も頭の中で反芻する、声。
僕が、好き?
(ぇ………えぇ!?)
嘘、嘘うそ、嘘だ、だって、あの先輩が僕のことを。
だって先輩にとって僕はただの興味で、暇潰しで、それ以上でもそれ以下でもなかったはず、で。
「…う、そ」
「嘘じゃない」
「だって、先輩は……」
「もう、君を"人間の一人"として見れないんだ」
「っ、」
「好き、帝人君が好き。だから、俺と一緒にいて欲しい」
僕より大きな先輩の手が、僕の手をぎゅうっと包んでくる。
冷たくて、でも心地良い。
赤色は僕を捉えて離さないから、視線を逸らすこともできなくて。
(ずるい、)
(先輩は、ずるい)
何で今頃言うの、とか。
今までそんな風に相手にしてくれなかったのに、とか。
信じることなんてできない、とか。
とか、とか、とか、でも。
そんなこと全部、どうでもいいって思いえるぐらい嬉しくて。
無意識の内に僕は、先輩の腰に抱きついていた。
「っ、み、帝人、くん…?」
「……先輩は、ずるいです」
「……、」
「ずるいです、卑怯です」
「……うん」
「でも、」
胸元に埋めていた顔を上げた。
先輩の瞳とかち合って、吸い込まれそうだと思った。
本当はずっと、惹かれていたんだ。
先輩の全てに、ずっと、ずっと――
「すき、です」
「っ、」
「好きです、僕も先輩のことが」
はっきり言ったつもりだった僕の声は馬鹿みたいに小さくて。
ちゃんと届いたか不安だったけど、先輩は。
「……ありがとう、帝人君」
臨也先輩は、今まで見たことないような優しい笑顔で、僕を抱きしめ返してくれた。