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【臨帝】イジワルな指先【腐向】

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秋晴れに恵まれた週末の新宿を、竜ヶ峰帝人はふわふわとした雲の上を歩くように軽やかな足取りで進んでいた。
 機嫌を良くしている理由は学業が終わり土日の余暇を迎えたせいでもあるが、年上の恋人である折原臨也のマンションに向っている影響が大きいだろう。
 彼ともう直ぐ会えると思えば、やっぱり嬉しくて仕方が無い。大好きで大好きで、仕方の無い人だから。

***

 田舎暮らしで非日常渦巻く都会に憧れ上京してきた帝人に対し、何かと世話を焼いてきたのが臨也だった。
 正確に言えば世話を焼くというよりも趣味の人間観察をする為に帝人をからかい、ちょっかいを出してきたという方がしっくり来る。

 眉目秀麗という言葉が見事に当て嵌まる美貌を持ち、巧みな話術を紡ぐハスキーな美声は腰が砕けそうに甘い。
 その上情報屋稼業で荒稼ぎして莫大な富を持つセレブとあれば世の女性が放って置くはずも無いが、彼は歪んだ博愛主義者で奇人だった。

 全人類を愛するという壮大な人間愛を主張する彼は屈折した人間だった。
 人を貶めた挙句、その人間が苦悩し迷走する姿を楽しみ愛でるという悪趣味を持っていたのだ。
 親友の正臣から絶対に近づいてはいけないと警告を受けながらも、帝人は。
 臨也から気さくに話しかけられれば、あっさり警戒心を解き気を許した。

 実際に臨也はちょっと意地悪だし、帝人の初心な反応を楽しむためのセクハラだって時折してくるけれど。
 基本は紳士的に接してくるし羽振りも良かった。
 一介の高校生が入れる筈の無い高級料亭やレストランに連れて行ってくれたり、高級外車でドライブに連れて行ってくれたりと帝人にとって魅力的な存在に変わっていった。情報屋を営む関係からか、会話のネタも豊富だし話をしていて楽しい。
 臨也と一緒にいるのが、楽しい。

 そう思う気持ちが――恋心に変わるまで、時間はさほどかからなかった。
 今まで女の子を可愛いと、淡い好意を抱いたことは何度かある。
 しかし朝から晩まで相手の事ばかり考えては胸を騒がせ、夜も眠れなくなってしまうほどの想いは抱えた事が無い。
 これが恋に落ちるという事かと、人生ではじめての本気の恋に直面していた。
 帝人は甘美な高揚と隣り合わせの苦く切ない胸の痛みに、とまどうばかりだった。人を恋しく思う気持ちが、こんなに複雑なものだったなんてと。

 臨也と会えば頬を染め上げ挙動不審な態度を取ってしまう事に焦りを覚えていると、彼の持つ長い指が視界に掛る。
 そして丸みを帯びた鼻先を摘まれたり、幼さをのこす頬肉をきゅむきゅむと摘まれたりと。
 からかわれて苛められているだけなのに、綺麗な指先に触れられているんだと思えばまた困惑して、俯く事しか出来なくて。

『どうしたの?』と臨也に覗き込まれても言葉に詰まり、何も言い出せなかった。
 素直な気持ちを吐き出した所で、きっとホモだってからかわれて一笑されるだけだろう。
『ねえ、帝人君最近、俺の事避けてない?』と臨也から怪訝な視線を向けられてしまえば、目頭がじんと熱くなり泣き出しそうになる。
 想いを伝えたくて仕方が無いけれど、それはできない。自分のように何の力も持たない貧相な、しかも男を相手にしてくれるはずが無いのだから。

『泣いちゃいそーだね。そんなに俺の事嫌いなんだ。俺は帝人君、好きなのになぁ』
さらっと告げられた好きという言葉は、押さえ込んだ想いをこじ開け解き放つには充分な威力となった。

『折原さんの好きは、本当の好きじゃないです!』
『本当の好きって、何?』
『だって、折原さんは人間なら皆好きで、僕だけが好きって訳じゃ、無い…!』

 感極まって目尻に涙を浮かべた帝人の唇を、臨也が自らのそれで塞いだ。
 熱を帯びた柔らかな感触が臨也の唇だと気付いたのは、涼しげな口角を優しく持ち上げた彼の美貌に気付いた瞬間だった。

『え、え…?』
『いくら人ラブの俺でも、こうした接触は誰彼構わず出来ないよ?』
『ど、どうして…?』
『だから言ってるじゃない。君が好きだからだよって』

 怜悧な美貌を綻ばせ、どこか照れたようにくすりと笑った臨也は、紅茶色をした眸をそっと伏せ――もう一度帝人に口付けを落としていた。

 はっきり付きあおうだとか宣言された訳ではないが、キスを交わしてから臨也との関係が、がらりと変わった。
 チャットの内緒モードやメールで交わす会話に色気が混じり、会えば触れられて、触れて。抱きしめられて、抱きついて。

 誘われるまま全てを曝け出して身体をつなげあい蜜のように甘い夜を過ごす、恋人同士という関係に変わっていったのだ。
 しかし、きっと自分は臨也にとって。何人もいるうちの恋人の一人に過ぎないのだろうと、思っていた。

 性格さえ目を瞑れば、臨也は世の女性にとって理想的な相手だ。そんな臨也に恋人の一人や二人いてもおかしくない。
 そう疑心暗鬼になり切ない思いを抱え込んだ帝人だったのだが――それでもいい。自分みたいな子供を好きだと。愛してると言ってくれて、可愛がってくれて。それだけでも十分幸せな事だと、そう思い込んでいた。

 しかし臨也は、他人の影をちらつかせない。
 帝人に費やす時間と仕事をしている時間を考えると、誰か他の相手と遊ぶ余裕があると思えないのだ。

 ある日臨也のマンションを訪れソファに腰を下ろし雑談をしている最中、帝人は『臨也さんって、僕としか付き合ってないんですか?』と聞いてみたのだが――その発言を、瞬時に消したくなった。
 花も綻ぶように優美な笑みを浮かべた臨也はゴゴゴ…と地響きでもしそうな威圧感をまといながら覆い被さり、帝人をソファに押し倒してきたのだ。

『なにそれ。俺が遊んでるとでも思ったの?』
『や、だって、臨也さんそんな感じだし』
『ひっどぉ~いっ! 太郎さんたらっ! じゃぁ、甘楽がどれだけ太郎さんを愛してるのかぁ、たぁっぷり教えてあげよーと思いまぁす!』
『え…』

『―覚悟、しなよ?』

 と大胆不敵に笑んだ臨也から散々身体を貪られて、先週末の休みは全身ボロボロにされた。
 土曜日の夕方から日曜の夜まで飽きることなく何度も貫かれて、悪戯をされて。食事をしたらさて再開と、食事とトイレ以外の時間はセックスに宛がわれた。

 行為の間に『臨也さんからちゃんと付き合ってって言われて無いし、だから、遊ばれてるだけだって思っちゃって…』と零したら『何言ってんの? 帝人君が俺の物なのは当然だろ? まだ…判らないのかなぁ?』と乱暴に身体を貫かれた。    
 そしていつしか意識を手放した事で、漸く開放されたのだ。

 翌朝目覚めて身体中に宿る鈍痛と歯型混じりの赤いキスマークが点在した身体に苦笑いを浮かべたが、ここまで彼に愛されてると漸く自覚することが出来た。

 しかし満身創痍でベットから起き上がれなくなり、月曜日は帰宅せず臨也のマンションで過ごし学校を休んでしまった。
 流石にやりすぎたかと少しばかり反省の色を見せた臨也に、『じゃ、来週はどっか遊びに連れて行ってください』とおねだりしたのだ。

***