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【臨帝】イジワルな指先【腐向】

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 そして一体何処に連れて行って貰えるんだろうかと期待に胸を膨らませていた帝人は、賑わう新宿の人波を潜り抜け臨也のマンションを訪ねた。
 スペアキーを預かっている為施錠されているドアを開け、事務所を兼ねるデザイナーズマンションに足を踏み入れる。

「お邪魔しまーす!」

 広々としたメゾネットタイプのマンションは、一階部分がオフィスとしての顔を持つ。
 室内の最奥に設置された臨也のデスクに届くよう大声を張り上げ前に進むと、臨也は何時もと変わらず所定の席で仕事をこなしていた。

「やあ、いらっしゃい。帝人君」
「こんにちは、臨也さん」

 スチール製のデスクに面した黒い椅子に腰を下ろす臨也は、資料の詰まった青いファイルを閉じた。
 すると帝人は臨也の指先に、ある異変を見つける。

「え、どーしたんですか?! その指!」
「ああ。どう? 似合うかな?」

 臨也は指の間をぴっちり合わせ手の甲を帝人に向け満足げな笑みを浮かべるが、帝人は回答に詰まった。
 たしかに細長いしなやかな指先は男にしては綺麗な手だと思うし、女性的だと思う。だから彼の指先を飾るネイルアートも似合うと思うのだが――

「なんでネイルアートなんて、してるんですか?」
「得意先の社長さんの娘がね、ネイルサロンやるからって招待されたの。そしたら手が綺麗だから、モデルやって欲しいっていわれてさ。さっき帰ってきたんだけど…帝人君に見せてから取ろうと思って」

 臨也の爪先は黒をベースにしたマニキュアが塗られ、キラキラとしたカラフルなスワロフスキービーズが散りばめられていた。
 まるでネオン煌めく新宿の夜を描き出したようなネイルアートは、臨也の指先に良く似合う。

 しばし見惚れていた帝人だったが、徐々に僅かな怒りが込み上げてきた。
 幾ら綺麗な手をしてるからといって、男の指にネイルアートをしようと考えるものなんだろうか。
 何処かよこしまな目的があったに、決まっていると。要はネイリストの令嬢に嫉妬しただけの事である。

「その人、臨也さんの手に触りたかっただけなんじゃないですか?」
「まあ、今度遊びませんかって誘われたけどさ」
「え…その返事、どーしたんですか? まさか…」
「なーに、帝人君、嫉妬?」
「ち、違います!」
「照れちゃって可愛いねぇ~」

 臨也はニタリと脂下がった笑みを浮かべると、帝人の頬を思いっきりツンと突付いた。
 帝人は硬質な付け爪の感触に痛みを覚えて、小さな悲鳴を上げる。

「いっ、痛いです!」
「どう? 爪」
「似合ってますけど、変です! なんか、悪魔の爪とか、そんな感じです!」
「へえ。悪魔かぁ。よく言われるよ。この外道とか、クズとか、ノミ蟲だとかね。まあ、こんなクソッタレな仕事してるから仕方ないけどさ」

 ハハッと乾いた笑い声を上げながら席を立った臨也は、帝人の手首を掴みあげた。

「え…?」
 強く手首を掴まれていることで、長い爪によって手首の血管を突き破られそうな錯覚を覚える。
 そして臨也は強引に手を引き前を進むと、室内にある豪奢なソファセットの上に向かい帝人を乱暴に突き飛ばした。

「…っ!」
 突然の浮遊感とソファへ投げ出された衝撃によって驚き、胸の鼓動がドクンと跳ねる。

「な、何するんですか?!」
「帝人君が悪い子なのでぇ、今から悪魔さんがおしおきしちゃいまーす!」
「ははは、はい?」

 おしおき。という物騒なキーワードに悪い予感を抱いた帝人は、幼い眉をひそめる。
 予感が実感に変わったのは、臨也が端整な美貌にニッコリとした笑みを貼り付けたからだ。
 こうして臨也が満面の笑みを浮かべる場合は、大概が何かの企みを抱えている。しかも極めて悪趣味な企みを。

「え…っ。や、何してるんですか?」
 臨也は長い付け爪を付けているというのに器用な手つきで、帝人の制服を乱してきた。

 ジャケットの前を開けネクタイを緩め一気に引き抜いたかと思えば、白いYシャツのボタンを外し下に着込んでいるTシャツの裾を捲り上げ、華奢な上半身をむき出しにする。

「さっき、疑っただろ?」
「な、何をですか?」
「俺が彼女に誘われて、OKしたんじゃないかって」
「あ、あの…っ?!」
「まったく。どーして判ってくれないのかなぁ。こんなに帝人君ラブな俺が、浮気なんてする筈ないってさぁ」

 臨也が長い指先を伸ばし、帝人の白い胸元へ漆黒に彩られた爪を立てる。
 硬い爪先は帝人の柔肌に食い込み、その感触に痛みを覚えた。
 すると突き立てられた爪先が胸元から下腹部へと、肌を裂くようにゆっくり下降してゆく。
 チリッとした痛みを伴いながら白い裸身を弄ぶ黒い指先に、帝人は甘美な快感を覚えていた。

「そんな風に思わないように、ちゃんと。躾けておかなきゃいけないよねぇ?」

 臨也は細く切れ上がった双眸に剣呑な色を宿しニヤリと口角を持ち上げながら、黒い爪先を上下させ帝人を玩ぶ。
 小さなへその窪みをくすぐる指先から性感を与えられてゾクンと震えた帝人は、じんわりと股間に熱が宿るのを悟った。
 そして臨也は確信めいた笑みを浮かべ、帝人のベルトに手を掛ける。

 まさしく悪魔が生け贄を貪ろうと毒牙を剥きだしにした所で、帝人は。デートはまたお預けだと、諦めの溜息を漏らす。
 しかし、熱を帯びた溜息には――これからはじまる甘美な営みへの期待が、込められていた。

END