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ゆあたり限界サティスファイ

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タクトの赤い髪の向こうで、格子窓は結露で白く曇っている。
湯気が立ち上るカップを、両手で包んで肩を縮めるタクト越しでは、いかにも寒波がやって来た日だった。

「ちなみにそれはどっちもスターサファイアとスターエメラルド。」
「ほえ〜〜。石なのに星なんだあ〜・・・すごいなお前。」
タクトは手の中のサファイアにそう話しかける。
「キレイ、スガタに似てる。」
「似てるか?」
「うん、色が。」
タクトはそれを宝石箱にそっと戻した。
宝石に似てると言われて嬉しくもないが、スガタは妙におかしくなる。
「ありがとう、ちょっとだけサフィールとエムロードのことわかった気がする。」

今週もタクトはシンドウ邸に泊まりに来ていた。
学校でスターソードの話になり、名前の由来にまったく気づいていなかったタクトに、「どっちも宝石だけど、見てみる?」と誘ったのはスガタ。
理由なんてなんでもいいのだ、タクトもスガタも、あの外泊からはじまった奇妙な関係を続けたいだけだった。
二度目がなければこうはならなかっただろう。
タクトがもう一度キスを求めた。それで二人はそういう関係になった。
禁断の遊びと秘密を共有する。
そんな関係。

宝石箱の美しい象嵌の模様に見とれて机に身を乗り出していたが、視線に気づき顔を上げるとタクトは身を引いた。
スガタが間近にタクトを見つめていたから。
「な・・・・なに?」
あんなに何度もキスしてるのに、未だにこんなことで吃るタクトが新鮮でならない。
「キスしようか?」
スガタが挑発するように微笑んで言うと、タクトはますます体を倒してソファの背もたれまで逃げた。
「よくそういうこと、普通に言えるよね・・。」
みるみる赤面するタクトは、やっとのことで力なく反論するが言えてたったこれしきだった。
スガタは満足そうに微笑んで、宝石箱が乗せてあるこちらも象嵌細工の低いテーブルを軽く跨ぐとタクトの隣に腰掛けた。
「なんとも思ってないから、タクトするキスについて。」
そしてなんとも思わないように、タクトのあごを掴むと遠慮なく顔を近づける。
タクトはスガタのように完璧に割り切ることもできず、熱を感じて少したじろぐ。
そのままソファに倒れ込む形になると、逃げ場がなくなりただ唇を奪われた。
心なしかタクトのクロスの傷跡が熱い。
肋骨の内側が連動するように、臓器全てから熱が発して、胸の奥だけ内蔵がぐつぐつ煮えるみたいだ。

胸が苦しい。
タクトは虚ろに瞳を開けると、陰ったスガタの瞳がそれを覗いていた。
二人はこの数ヶ月で、何度も何度もキスをした。
はじまりはこの部屋で、二度目は部室で、三度目は階段で、四度目はスガタの部屋で。
タクトは全部覚えている。
キスを重ねるうちにスガタの癖も分かるようになった。
キスをしてる時スガタは、タクトの瞳を覗くのが好き。
とても間近で、何を伝えるでもなく、タクトの瞳を覗き込むのが好きらしい。
タクトは瞳を閉じていたい。
だって恥ずかしいし。
けれど視線を感じるので、時折確認してしまう。
案の定そのムーンライトの瞳がこちらを窺っているのだ。
口内は交わり解れつしているのに、その瞳はとても冷淡に見える。
そんな風に見つめられると、翻弄されている自分が二枚も三枚も下手だと気づかされてしまう。
だからタクトは目を瞑り、もっと深く口づける。

「あ・・・。」
「ちょっと手合わせしない?」
スガタはさっと体を起こし立ち上がるとそう言った。
タクトは少し不安になる。
タクトがキスに没頭すると、スガタはさっと身を引くのだ。
自分は好き勝手にキスするくせに、タクトが答えるのはあまり気に入らないらしい。
タクトは上半身を持ち上げたまま、少し不服そうにスガタを見上げたが。
「いいよ。」
と勝ち気に微笑んだ。

「稽古着っていうのは良いもんだね。」という話をスガタにしてみた。
「武道というのはそういうものだからね。」というタクトには理解できない答えが返ってきた。
「日本古来の伝統を受け継いでいるから、こうやって着慣れない稽古着をワザワザ着て、昔の人みたいに左上に合わせていると、歴史を感じて気持ちが引き締まるよね。」と言って。
右前になっていたタクトの稽古着を左前に直してやる。
「あれ。」といいながらされるままのタクトは、やはりスガタが近づくと内蔵が煮えるような感覚がした。
タクトはどうもだめだな、と思った。
早くスガタと闘いたい。
本気で稽古を付けている時は心地いいから。
アドレナリン放出しまくりで、ガンガン打ち合うのもいい。ああいうのは大概数秒だ。集中力が高まっている時は、相手もそうだと感じる。
研ぎすまされた神経はお互いに集中し合う。
スガタが間合いを詰めた、次の瞬間に竹刀のしなる音が響いた。

「ごめん!!止められなかった!」
スガタが肩を抑えて振り向いた。
「いいよ、僕も本気だったし。」
「大丈夫?ちょっと見せて。」
スガタの稽古着を右にずらして、タクトはくっきりと赤く痕が残っている患部を手で抑えた。
「痛い?」
「いや、それほどじゃない。」
「冷やそう。」
そう言うと二人は風呂場へと向かった。
以前も似たようなことがあり、先にメイドに傷を見せると湿布を貼られてしまった。
結局汗を流すために、風呂場ですぐに剥がすことになったからだ。
こういう傷の対処法はまず冷やすことなので、タクトは風呂場につくとフェイスタオルを水でしぼり、スガタの肩に乗せた。
「きもちいい。ありがとうタクト。」
風呂場の立派な籐イスに、腰掛けるスガタを俯瞰する。
「ごめんね。」
「気にするなよ、稽古に怪我はつきものだし。タクトは先入ってなよ。汗が冷えるぞ。」
「うん。」と遠慮がちにうなづくと、タクトは言われるままに風呂に入ることにした。
タクトがカゴの前で稽古着の紐を解くのを、スガタはしばらく眺めていたのだが、袴が落ちた瞬間に視線を逸らせた。
男が脱衣するのを、眺める趣味はさすがにない。
「じゃ、お先に。」
タクトが風呂場に入ってゆくと、スガタは肩のタオルを退けてみた。
最南端の島と言えど、冬場に薄着で脱衣所は寒い。タクトと同じに自分も汗が冷えていくのを感じ、タオルを乗せたままスガタも稽古着を脱いだ。
戸をあけると赤い後ろ頭が振り向いた。
「ほんっと〜、稽古の後のお風呂って最高だよね〜〜。」
風呂の淵に手を組んでタクトは水中にうつ伏せる。
「タオル平気?」
「もう結構冷やしたし、まだ足りないだろうけど。温まりながら冷やすよ。」
温まりながら冷やすという発想にタクトが無邪気な笑い声を上げる。
天井の高い風呂場によく響く。子供の頃の情景がフラッシュバックして心地いい。
体を流すと水でもういちどタオルを絞る。井戸水なのでよく冷える。
それをもう一度患部に乗せて、スガタはゆっくりとお湯に足を入れた。
「・・・・はあ〜〜〜。」
全身の血行が開いて自律神経系が、強制的に副交感神経優位となる。
さっきまで交感神経全開だっただけに、「ゆるむなあ。」とスガタが一人ごちる。
冷やしたタオルが湯舟に浸かるのも気にせず。深く湯に落ちるスガタの目の前を、タクトのしなやかな手が横切った。
虚ろな瞳を開く頃には、タクトが目前半分被さって、肩のタオルを持ち上げた。