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THW小説① ~夜明け~

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「・・・どこだ,ここは・・・」
気が付いたら,自分がどこにいるのか,さっぱり見当もつかなかった。
辺りを見回しても,廃墟と瓦礫しかない。
どこもかしこも,同じ風景だ。
だから,どうやってここまで来たのか,全くわからない。
「・・・・」
かすかに,人の気配はあちらこちらからするようだ。
・・・しかし,本当に,ここが日本の首都だったのか。
数十年前までは,人ゴミで溢れていた街。
今のこの風景からは,想像もできなかった。

「ふぅ・・」
ダルい身体を,瓦礫の壁にもたれさせ,何度目かわからない溜息をつく。
自分が,この戦場に送り込まれてから,まだ日は浅い。
「能力者」とやらに覚醒したらしい自分は,わけもわからず,たった一人,戦場の真ん中に落とされた。
「能力者」になる前の記憶は,ひどく断片的だ。
自分が,どこの何者だったかすら,曖昧になっている。
たった一つ,わかっているのは,自国を勝利に導く「道具」だということ――
だが,そんなことすら,どうでもよくなっていた。

毎日,繰り返される戦闘。
出会った敵国の奴らを,手当たり次第,斬り伏せる。
出会う,斬る,出会う,斬る――ーー
手になじんでいる刀は,おそらく,昔から自分が使っていた物だろう。
その愛刀から伝わってくる,肉や骨を断つ感触だけが,自分が生きている証だった。
「俺は――何をしてるんだ?」
誰に聞かせるわけでもなく,ぽつり,と灰色の空に向かってつぶやく。

と,急激に,目の前が暗くなってきた。
いつものブラックアウト。
少し戦うと,すぐに身体は言うことをきかなくなる。
「またか・・・・」
俺の身体は本当にどうしちまったのか。
ヤワなつもりではなかったんだが。
ある意味,あきらめにも似た気持ちで,俺は意識を手放した――

ぶっ倒れるたびに,研究所とやらで目が覚める。
胸クソ悪い気分も,相変わらずだ。
そして,お決まりに投げかけられる言葉。
「おはよう。今日からあなたは新しく生まれ変わったのよ。」
生まれ変わった・・ねぇ。
もう,何度目かわからない「融合」という名の「再生」。
今の「俺」は「俺」だという認識がありながらも,前の「俺」ではない。
少しずつ,自分が変わる。
自分が,自分でなくなる感覚。
「さぁ,行ってちょうだい。自国を勝利に導くために――」
そう言って,いつもの女は俺を送り出す。

―――どこに?
俺は,どこに行けばいい?
何をすればいい?
―――何の,ために?
―――誰の,ために?

・・・わからない。
何度考えても,さっぱりわからない。
こんな疑問を口にすれば,「不良品」として扱われ,処分されるのがオチだろう。

俺は,無言で研究所を後にし,街へ出た。
また,当てもなく,彷徨うために――――

目の前を,自分に血祭りにされた,誰ともわからない敵国の奴が崩れ落ちていく。
何度目かわからない戦闘の後,のろのろと辺りを見回した。
視界の隅に,自国の奴らが何人か映り込む。
慌てて気配を消し,側の瓦礫に隠れた。
「・・・・自国の奴なんだから,隠れなくたっていいじゃねぇか・・・」
密かに自分でツッコミを入れてみる。
だが,どことなく,自分が「不良品」であろうことが知られたくなく,後ろめたさを感じる。

数人の自国の連中は,コソコソと話し合いを始めたようだ。
思わず,聞き耳を立てる。
・・・すると,そこから,知っている名前が何度も聞こえてきて,はっとした。
朧気な記憶の中に存在する,数少ない男の名前。
「・・・うとくたいの・・・」
「・・ビ隊長によって・・・」
内容までは,詳しく聞き取れない。
が,どうやら,自分の知っている男のことを話しているらしい。

―――――この戦場に,居るのか。
・・・確か,アイツは悪い奴じゃなかったはずだ。
遠い遠い昔,あの男と笑いあった記憶が,微かに存在する。
あっちが俺のことを覚えているかどうかなんてわからないが,訪ねてみてもいいのかもしれない。

「・・・・の,足立区で・・・」
「・・・こに集合・・・・」
話し合っていた自国のやつらは,集合場所を決めて,散り散りに去っていった。

「・・・足立区か・・・」
一度,揺さぶられた記憶は,そう簡単には消えてくれない。
自分の記憶を確かめてみたい,という好奇心もある。
何より,このまま,意味もなく戦場を彷徨うことから,解放されるかもしれない。
「・・・行ってみるか」
目的をもって,どこかに行くのなんてはじめてだな,と思いながら,俺は足立区へ向かうために足を踏み出した。

足立区へ着いたころには,日が暮れていた。
治安がいい場所なんて存在しないが,夜は一層危険だ。
他国との領地抗争も激しくなる。
辺りを警戒しつつ,気配をさぐる。
すると,自国の奴で固められていることに気が付いた。
敵国の奴の気配はない。
「・・・占領地か?」
思ってみれば,100%の占領地なんて,来たことがなかった。
いつも,敵国の懐に飛び込んでばかりいたから。
少しばかり,警戒を解いて,その辺りを歩いている奴をつかまえ,知っている男の名を尋ねる。
すると,そいつは一気に破顔して,こう言った。

「なんだ,あんたも攻特隊に入りたいのか?」

・・・こうとくたい?
なんだ,それ。

ぽかん,としている俺の顔なんておかまいなしに,そいつは,グイグイと俺をひっぱって建物の中に入っていった。