二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

THW小説① ~夜明け~

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 


引っ張られながら,俺は若干焦っていた。
さっき聞いた「こうとくたい」という言葉。
・・・全く知らない言葉だ。
また,俺の記憶障害か。
本当ならば,知っていなくてはいけないことなのか。
これを,俺が知らないと知られたら,まずいことになるんじゃないのか。
どうする。
コイツの手を振りほどいて,逃げるか。
逃げたら,逆に怪しまれるか――――

そんなことをグルグル考えているうちに,あっというまに広間へと連れてこられてしまった。
「隊長!!入隊希望者ですよ!!」
ぽん,と背中を押されて,「隊長」と呼ばれた男の前に突き出される。
振り向いた「隊長」は――――やっぱり,自分の記憶にある,男の顔だった。

「おお!?碧風じゃないか!よく来たな!」
そういって,男はバンバンと俺の背中を叩く。
ああ,そうだ,この男は,こっちの都合とかおかまいなしにマイペースだったっけ。
「・・・・・」
俺は,若干呆気にとられながらも,どこか納得して,男の顔を見つめていた。
「どうした?俺のとこに入りたいんじゃないのか?」
笑顔でそう問われて,俺は腹を決めることにした。
「―――ああ。俺,実は,よく,わからねぇんだ。だから,とりあえずお前んとこ,入れてくれ。」
ザワっと周りにいた数人がざわめく。
「わからねぇ」ということに対してなのか,口のきき方に対してなのか・・・
別に,どっちに対してでもいい。
周りは関係ない。
問題は,この男がどう言うかだ。

すると,あっけらかんと男は言い放った。
「ああ,いいぞ。何でも聞け。おい,お前ら,世話してやれ!」
その言葉と同時に,周りがわっと湧いて,俺はもみくちゃにされた。
「埼玉攻特隊,入隊おめでとう!」
「どこから来たの?能力は?」
「スキルは?何があるの?」
「融合は?何回やった?あれ,何度やっても気持ち悪いよなぁ〜」
「襲撃どのぐらいやってきたんだ?」
次々と浴びせられる質問。
「〜〜〜〜っ!!」
・・・思えば,今まで俺は―――少なくとも,覚醒してからの俺は―――こんなに人に囲まれたことなんてなかった。
しかも,この歓迎っぷり。
どぎまぎするしかない俺の様子に,「隊長」は苦笑まじりに言葉をかけた。
「おいおい,お前らが質問攻めにしてどうするんだ。この迷子ちゃんに色々教えてやってくれ。」
・・・迷子。
そうだ,俺は迷子だ。
この戦場での迷子。まさしくそうだ。
「そうね,とりあえず,静かなとこに行きましょう。お話,いろいろ聞かせて?」
目の前の,赤い髪の少女が,にっこりとほほ笑む。
こくん,と無言で頷く俺を満足げに見上げ,俺は,少女に連れられて行った。

それから,俺はすごい量の知識を詰め込んだ。
この戦争のこと。
自分の能力のこと。
融合のこと,などなど。
基本的な知識は,ほとんど理解できるようになった。
・・・だが,相変わらず,以前の記憶は戻らなかった。
「時々,居るのよ。あなたみたいに,覚醒時に記憶障害が出ちゃう人。その状態で戦場に送り込まれてもね,どうしていいかなんて,わからないわよねぇ」
少し寂しそうに,少女が笑う。
「あなたは,慎重だったから,誰にも話せなかったのね。辛かったでしょう?」
「ん〜〜〜・・・」
辛い,というのとは,少し違う。
ただ,疲れ果てていたことは確かだ。

誰も信用できない。
信用できるのは,おのれの剣のみ。
四六時中,気を張って生き延びる。
それの繰り返し。

「でもね,ここの隊長さんは,すごくいい人よ。面倒見もいいし,あなたみたいな人を沢山育てているわ。信頼して大丈夫よ。」
「・・・そうだな。あの男は面倒見がいい。」
「そうだった,あなた,隊長を知っていたのよね?」
「・・・なんとなく,だけどな。たまたま,名前を聞いたから来てみたんだ。」
「・・・ふ〜ん,慎重なあなたが『たまたま』・・・とは,思えないけど・・・」
「まぁ,あれだ。昔の俺が,ヤツを信頼していたんだろうな。」
「そうね。あなたのその信頼は正解よ。」
そう言って,にっこりと少女はほほ笑んだ。

ここで,ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
もう,疑問を隠す必要もなくなったことに,どこかしら安堵を覚えた。
「ところで,この『攻特隊』ってやつはでかいのか?」
「そうね,埼玉ではNo1の部隊ね」
「へー。んで?あいつはその隊長なのか?」
「そうよ。総隊長。傘下の部隊もあるぐらいよ。」
「はー。随分偉くなったもんだな。」
「全然偉ぶってないけどね〜」
「ほー。そりゃたいしたもんだ」
確かに,そんなトップの人間に,あの最初の口のきき方じゃ,ビビるやつもいただろう。
だが,俺は俺だし,態度を変えるつもりは毛頭ない。
「へー」だの「はー」だの,間抜けな声を出し続ける俺がよほどおかしかったのか,少女は腹をかかえて笑い転げている。
「・・・あなた,最初と随分,印象が変わったわ。それが,本当の『あなた』なのね。」
涙をふきながら,そんなことを言う。
「本当の俺?俺はいつでも俺だよ」
「そうね。そうなんだけど・・・あなたは,記憶を失って,どこかで『これは本当の自分じゃない』って思ってなかった?」
少女の核心をついた言葉に,ギクリと体をこわばらせる。
「・・・私だってそうよ。融合を繰り返せば,どれが本当の自分かなんて,わからなくなる。でもね,どれも本当の自分なのよ。今ある『自分』が『本当』なの。記憶をなくしたって,そこからの自分が本当。自分は,自分で作っていくしかないのよ。」
少し目を伏せながら,少女は真面目な声色で語った。

・・・なるほどな。
俺だけじゃない。
「融合」を繰り返せば,誰だってそうなる。
それを,皆が経験している。

「さて,と」
少女は,ぱんっと手を叩いて,俺を現実に引き戻した。
「そろそろ,作戦の時間だわ。あなたも来るでしょう?」
「作戦?」
「そう,作戦。この攻特隊の部隊で,組織的に行動するのよ。」
「組織的・・・」
今まで,一人で戦ってきた俺には,それがどういう戦い方なのか,全くわからない。
そんな不安を悟ったのか,安心させるように少女が言葉をつなぐ。
「大丈夫よ。しっかり指令が出るから。あなたは,その通りに動けばいいのよ。せっかく攻特隊に入ったんだもの,やってみましょう。」
「・・・ああ。よろしく頼む。」
俺は,少女に案内されるまま,会議室へと向かった。


作戦遂行は,実に鮮やかなものだった。
司令官の通りに動く部隊。
次々と占領を広げる自国。
仲間に,背を預けて次々と敵国の奴を倒す。
それは,不思議と,今までの憂鬱な気分ではなく,むしろ昂揚感を感じさせた。

そうか。
目的をもった剣は,こんなにも軽いのか。
誰かのために,剣を振るうことは,こんなにも満たされるのか・・・・

・・・悪くない。

この,戦争がいつ終わるのかなんて,わからない。
いつ,自分が死んでしまうのかも,わからない,
でも・・・この仲間達のために,この戦場で,生きていけるのならば,それでいい。

どこか,晴れ晴れとした気分で,俺は仲間達と夜明けの空を眺めていた。
 
                         2010.12.18