今のところ無題
「小学生が来た?ここへか?」
臨也はうん、と頷き、彼の手からひょいと本を抜き取った。パラパラと目を通しながら適当な椅子へと腰掛ける。
「苗字はよくある名前だったけど、名前は新羅だって。変わった名前だよねぇ」
新羅、そんな変わった名前をつけるのは、きっとあの屋敷に関係する子供だろう。
確か、夏になると息子が孫を連れて戻ってくると聞いたことがある。その姿を何度か見た気はするが、はっきりと覚えてはいなかった。だが、それでもお前に言われたくないだろうと、顔もよく覚えていない子供を想い門田は嘆息を洩らす。
「変わってるついでに解剖が趣味らしいよ。ハハッ、子供っぽくないよね」
「大人でもそういう趣味の奴はあまり居ないと思うぞ」
門田は奪い取られた本を取り返し、代わりに缶コーヒーを渡した。飲みかけなんだけどと、文句を言いながら臨也は受け取る。口に運んでみたが、臨也には正直味はよく分からなかった。
「また来るって言ったんだ」
早々に缶を突き返す臨也の言葉に取り損ねそうになる。門田は耳を疑った。
「あの噂もある。第一、ここに近づくのを周りが許さないだろう」
「そうなんだ!」
門田の言葉に臨也は飛び上がる。
「彼はここに来てはいけないと聞いていた。なのにここへ来たんだ。覗くだけの予定だったみたいだから、俺を見つけたのは計算外だったろうね。今まで同じことをした人間は何人か居たよ。だけど、逃げなかったのは…君を合わせると彼が二人目だ、ドタチン」
臨也が微笑う。門田の口からまた嘆息が零れた。
「…三人目だ」
門田の強い眼差しを臨也に向ける。
「それに俺はお前がここに居ると知っていたから来たんだ」
臨也の視線が窓へと移る。窓の外はオレンジ色に染まり始めていた。
「もうすぐ日が落ちる。ドタチンももう帰りなよ」
「…また来る」