今のところ無題
イザヤは妙に整った顔立ちをしていた。
よくあるモンゴロイド特有の薄い肌で、鼻梁の高く、視野が広そうな双眸をしている。
ただ稀に見ない赤い瞳だけが際立っていた。彼にはよく似合っていると思えたが、少し怖いとも思った。だから、浮かべた笑みは少し出来過ぎていて作り物のようにさえ感じる。
新羅は慌てて身を起こした。
「ごめんなさいごめんなさい!扉が開いてたから覗いてしまいました!悪いことしようとしてたわけじゃないんです、ほんの出来心です!だから食べないで怒らないで!」
捲くし立てると彼は瞬きを数度繰り返し、ぷっと吹き出した。
「ははっ、別に怒っていないよ。でもちょっと驚いたなぁ。さっきも言ったけれど、ここに人が来るのは珍しいんだよね。迷子?…のようには見えないな。探し物?それとも礼拝でもしにきた?…なんてね」
くすくすと笑って彼は傍らの椅子に腰掛けた。
「ここの祭壇には十字架もキリストも居ないからね」
彼の言うとおり、ここの祭壇には何も祭られていないのだ。
祭壇には何もなかった。
教会には必ずあるはずの十字も、そこに掲げられた男も。彼を産んだという母の姿もなかった。
では、さっき見た姿はなんだったのだろう。確かに祈っているように見えたのに。
それとも彼にだけは何もないあの場所に何か見えるのだろうか。あの場所に。
祭壇を見つめる新羅を見ながらイザヤはまた笑った。
「まあ、せっかく来たんだし、ゆっくりしていきなよ。ちょうど退屈してたんだ。───ねぇ、君の名前教えてよ」