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遠つ夜(とおつよる)

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 彼の身体にかかる伯父の美しい黒髪は母のそれに似て、混ざってしまった房ははたしてどちらのものであるのか分からない。マイグリンが身じろぎしたときに、か細い硬質な音を立てて引かれたのが彼の髪であったろうが、伯父の背中に腕を回して互いの肩に頭を預けてしまえば、ふたたびすべてが一つになった。
「伯父上、哀しいのは皆一緒でございます。しかしもっとも重い哀しみを受けたのは、わたくしたち二人だけにございます」
 そう言い切るとマイグリンはゆっくりと目を閉じ、視野が闇の中に閉ざされてゆくのを緩慢に味わっていた。この薄闇こそ彼の愛するものだった。マイグリンの中に流れるモリクウェンディの血が、彼の心を浸す覆せない絶望が、薄暮を求めてじくじくと疼く。

 アル・フェイニエル……トゥアゴンのつぶやきの中に、母の雅名を聞きつけてマイグリンは薄く笑った。白い絹布に落ちた一滴の墨が、他の色に遮られることなく沁みを拡げてゆく。そしてそこから腐食が生まれ、美しい光沢を湛えていた織り目のすべてが黒に堕した。それに触れたぬばたまの夜も腐れ落ち、闇の中にあってどれが穢れなき夜空なのか、どれが芥なのか見分けがつかなくなってしまった。トゥアゴンの髪の中に、マイグリンの毛髪が紛れてしまったのと同じように。
 まぶたの裏に浮かぶこの幻影が、はたして何を意味するのかマイグリンには分からない。しかしやがて、このゴンドリンの聡き目は彼の手によって毀(こぼ)たれ、そこに黒い紗幕がかけられてしまうのだろうと思われた。トゥアゴンは同じ哀しみを負った甥を疑わぬであろう……そしてマイグリンは、やがて自分が父と同じ憎悪に堕ち、同じ無明に墜ちるのだと悟った。父の古い呪詛が、遠つ予言が、彼の耳にこだまする。


この地でお前は、お前の望みの全てを失うであろう。そしてお前も、いつかここでわたしと同じ死を死ぬがよい