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遠つ夜(とおつよる)

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 トゥアゴンに父のことを思い出させることは得策ではないと感じていたマイグリンは、しかしとっさについたこの嘘を即座に悔いた。自分の感情から遠い都合のいい虚言がすぐに出てくるはずもなく、マイグリンは会話の中心にアレゼルを呼び戻してしまった。すとん、と落ちるように笑みは消え、トゥアゴンの目はふたたび深い哀しみに捉えられてゆく。「ああ、それゆえか……お前の姿がいつもより黒く見えたのは」マイグリンは歯の奥に苦いものが滲むのを感じた。
「これまで、お前が白い服を着てくれたなら、と思わないでもなかったが、そうか、お前は哀悼の中に生きるのだね」
 めずらしく狼狽の色がのぼった甥の顔から目を離さず、トゥアゴンは緩慢な所作で甥のもとへ近づき、そしてその体を抱き留める。哀しい、哀しいことだ……アレゼルの遺した瑕が癒えることはないだろう……耳もとでささやかれるクウェンヤを、マイグリンはただ呆然と聞いていた。