骨折り損
「…ねぇ、帝人くん。いっそこのまま俺の上で腰振ってみない?」
調子に乗るな。
そう意味を込めて臨也さんの耳を引っ張った。
「イタ、イタタタタッ。」
「だいたい、たかが腕の骨折で何を弱気になってるんですか!」
僕がそう言うと、臨也さんはアハハと笑った。
「たかが骨折も結構痛いよ。人間の身体って案外もろいもんだね。」
「…結構な高さの階段から落ちて、腕の骨折だけですんだのなら、まだ良いのかもしれないですよ。」
「まぁ確かにね。死ぬかと思ったもん、実際。」
そうだ。最初にその知らせを受けた時、僕の心臓が一瞬凍った。
結局大事に至らなくて良かったけれど。
「気をつけて下さい。」
僕がそう言うと臨也さんがからかいを含んだ笑みで僕を見た。
「そうだねぇ、俺としても帝人くんを泣かせるのは良心の呵責に耐えられないからね。」
「っ、べ、別に泣いてな、」
「あれ?病院に運ばれた俺を見て目を赤くしてなかった?」
ニヤニヤと笑われて僕が起ころうとしたところ、ちょうどそこへ看護師さんが来て面会時間の終わりを告げられた。
「…もう、帰ります。」
「うん。」
寂しいと思ってしまうのはお互いだ。
ドアを開けて、背を向けると、「帝人くん」と呼ばれる。
振り向くと、臨也さんらしい自信満々の笑みで僕を見ていた。
「この腕が治ったら、今度はちゃんと俺が抱き締めてあげる。
帝人くんの骨が、折れるくらい。」
臨也さんの目は、怖いくらい本気だった。