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可哀想のシーソーゲエム

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「あー、ないない。シズちゃんとなんか絶対無理だし、新羅だって別に俺のことを友達だなんて思って何かいやしないよ」
「何でそう云い切れるんすか」
「絶対そうに決まってるって。ていうか其の『友達』っていうのがもうよく分からない。そうじゃない人と何が如何違うのかよく分からない」
随分簡単なようで難しいことを云われ、正臣が考え込んでしまうと、また食事を再開しつつ、「でもあれだ、結構面白いね斯うやって誰かとなんか作って食べるの」と臨也が云う。視線をやれば、臨也の顔には満足そうな笑みが萌していた。
……噫、此の人は自分で自分を独りにしている。
満足そうな臨也を見て、正臣は胸の裡で密かに呟いた。
「新羅だって別に俺のことを友達だなんて思って何かいやしないよ」
臨也は先程そう云ったが、正臣は、其れは違うと思った。
正臣は、新羅にきちんと会ったことはなく、ただ「闇医者の人」というだけの印象しかなかったが、臨也が他の連中と持つような薄っぺらい関係ではないと感じている。臨也の口からはよく新羅の名前が出て来るし、電話だって仕事以外の、何だかお小言のようなことを云われているような雰囲気で臨也が話しているのを何度か見ている。そもそも、臨也のような或る意味面倒くさい人間とただの利害関係でなく、長年付き合いを持っている時点で、其れはもう或る種の立派な愛情表現なのではないか、と正臣は思うのだった。
――ねぇ、聞いてる?
そう云う声と共に目の前に急に銀色のスプーンがぬっと現れ、正臣は声を上げなかったものの酷く驚いた。
「あぁ、すみません。ぼんやりしてました……」
そう謝れば、臨也は「本当に君は俺に挑戦的だよね」と笑って正臣の頬を抓る。痛い、と文句を言えば、臨也は可笑しそうに嗤って手を離した。其れから「また食事に付き合いなよ、今度はシチューが食べたいな」と云う。
其の言葉に、思わず「えぇっ!?」と正臣は眉根を顰め、其の儘拒否する言葉を続けようとしたが中止、開きかけた口を噤む。
「うん、ほんと美味しい。おかわりしよう」
臨也がそう云って笑ったのだ。其の表情は楽しくて仕方が無いといった感じで、正臣には其れが何だか小さな子供のように見え、何故か泣きたくなった。
「……じゃぁ、今度はシチューで」
そう返事をして、正臣は目の前に座って熱心にニンジンを除けている大人を可哀想に思った。






作品名:可哀想のシーソーゲエム 作家名:Callas_ma