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ライメイ

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夜風が窓を激しく揺らす音に、クルガンは書物から目を上げた。
先刻より風がさらに強くなったようだ。
外の荒れ狂う空気の気配を感じ取ったのか、再び窓が震える音に呼応するようにテーブルの上のランプの灯が僅かに揺らめいた。

「クルガン様、助けてください」
部屋の主の応えを待ち切れないように飛び込んで来た将校---クオリーという名の副長は、困惑した表情を全身で表して、その事態に少し眉をひそめたクルガンに懇願した。
「シード様が---我々には、どうすることも、」
おそらく全速力でここまで駆けてきたのだろう。
息を切らしつつそう訴える男にとりあえず机上の水を勧め、どうしたのかとクルガンは静かな声で問うた。
そのいつもどおりの落ち着いた様に、対する副長も幾分冷静さを取り戻す。

「宿舎の酒場でシード様と御一緒していたのですが、シード様の御機嫌がいつにも増して悪くて…」
「わかった、すぐに行く。」

全部を聴かずともどういう事態に陥ったのか安易に予測がつく。
クオリーの言葉を遮り、クルガンは書物を少々名残惜しげに置くと立ち上がった。
だいたい、彼に四軍の者が救助を求めて来るとしたら、まずシードの事だと判断して間違いは無い。
俺は奴の保護者では無いぞと愚痴りたくもなるが、暴走した時の彼を止められるのはクルガンしかいないから、仕方が無いと言えば仕方が無い。

ゆっくりと後を続くクルガンをせかすように何度も振り返りながら、副長は泣きそうな声で話を続けた。
「俺がいけなかったんです。余計な事を言ったから……」
「お前のせいではない。どうせ奴は前から…機嫌が悪かった」
今朝の彼の様子を思い浮かべながらクルガンは廊下の窓から輝く月を見上げた。
外は庭園の木々を揺らす程の酷い風だというのに、その夜空に輝く月だけは微動だにせず静かに光を落としている。

実際、シードは先日から非常に機嫌を損ねていた。
いつもは快活で単純で、機嫌を悪くすればすぐその事を口にするのに、今回は何も言わず静かに不機嫌だった。
その原因はほぼ予測がついていたが、あえてクルガンは口を出さず黙っていた。

元々クルガンと違って発散しなければ怒りを除去できないタイプだから、その溜め込んでいたストレスがいつ爆発するかと思っていたのだが、予想より早い様にこらえ性の無い奴めと苦笑がもれる。

しかし、副長に即され兵舎の酒場に足を踏み入れたクルガンは、その自分の考えがあまりにも楽天的だったと気づかされる。
中はひどい状態であった。
テーブルはことごとく倒れ、グラスや皿は粉々に砕け散り、何より数人の怪我人がいることに彼はその表情を厳しいものにした。

「シードはどうした?」

聴けば、先刻までそこに悪態を付きながら座り込んで居たそうだが、雨が降り出した途端に出て行ったのだと言う。
一人一人に声をかけ、怪我人が全て軽傷である事に安堵する。
身内を傷つけるというシードの主義に反する行為は、何にしろ後々彼をフォローしなければならないクルガンにとっても都合が悪い。

酒場の主に詫びてから後の処理を副長に適格に指示すると、酒場を出た。
いつの間にか降り出していた雨は、強風にあおられ、嵐の様相を示している。
僅かに遠くに響いた雷鳴の音に一瞬空を見上げ、クルガンは吹き荒れる雨の中を闘技場のある広場へ足を向けた。


作品名:ライメイ 作家名:すずむし