ライメイ
「………辞めない。」
そうつぶやき、いつものとおりの強い光を瞳に宿らせながら、シードは立ち上がった。
「辞めねえぞ。オレは。」
荒れ狂う雷雨の中、その愛剣を抜く。ひっきりなしに上空に走る稲妻に、その刀身が青く光を放った。
「オレは辞めねえ。軍も、将軍も、このオレの生き方だと決めたんだ。最後まで、守ると!」
そう言い様片足を踏み込み、その剣を鋭く一閃させる。一瞬、その太刀筋に雨と風が途切れ、再び何事も無かったように二人の間を吹き抜けた。
「オレはこの国をどんな事をしてでも最後まで守る。そう決めてる。その為なら………よし!クルガン!」
その様を無言で見守っていたクルガンは、快活な笑顔でいきなり名を呼ばれ、思わず腕を組んだまま目をしばたかせた。
「気分が晴れたぞ。ついでだ、一戦勝負しろ!」
「…待て。今、ここでか?」
上空には今どこに落下せんとばかりに稲妻が身を潜めている。
こんな所で互いに剣を抜けば、どちらかが雷に打たれ、文字通り人間避雷針になりかねない。
「当たり前だ!気分が乗ってるオレは強いぞ!」
「そういう問題ではなかろう」
改めて気分の切り替えの早すぎる相棒に舌を巻きつつ、クルガンは手摺りから身を放した。
このまま正直につきあっていては、命が危ないと言える。
「あっ!貴様!逃げるか!?」
「人生は丁寧に使った方が良い。」
「この、腰抜け---ってうわっ!」
その時ひときわ激しい光と轟音をたてた雷に対する悲鳴なのか、それともクルガンに襟元を鷲掴みにされた事に対する悲鳴なのか。
「放せ!馬鹿野郎!」
「馬鹿はお前だ。風邪をひいても介抱してやらんぞ。」
「ばっきゃろー!風邪のときにお前の顔なんざ見たら余計酷くなるわ!」
「その言葉、忘れるな。」
「いってえ!貴様殴ったな!このオレのビューティホーな顔を殴ったな!」
喚くシードに構わずその襟首を掴み、ずるずると屋内へ引きずって行くクルガンの背後では、くぐもった音をたてて雷鳴が、惜しそうに二人を見送っている。
まるでそれは、せっかく見つけた獲物をその手元から奪って行った男に対する呪詛の声のようだった。