二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

カエルバショ

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
戦局は熾烈を極めつつあった。
ついに皇都ルルノイエに乗り込んだ、同盟軍の軍は総勢13000名。それに対峙したハイランド王国軍12000名。
勢いに乗ったまま攻め込まんとする者ともう後が無く守らんとする者の力は拮抗し、誰が見ても長期戦を予想させた。


「あの小僧、結構"やる"。」


同盟軍騎馬隊第2隊の隊長を務めるゲオルグ・プライムは、乾いた大地に砂塵の巻き上がる中その精悍な目を細め、前方を見据えた。
目前には、皇都ルルノイエを視界から遮るようにしてハイランド王国軍の一隊が砂塵の合間に黒く、まるで蜃気楼のように揺れている。

この時期のハイランドには珍しく、ぎらぎらと輝く太陽は真上に上がり、気温が急激に上がってきていた。
ゲオルグは馬上でその剣を鞘に納めると、空いた手の甲で滲み始めた額の汗を拭う。
そしてマントをむしるように外し、放り捨てた。

その隊と交錯したのは一瞬だった。
しかし、後で自隊に目を配ると、予測以上の犠牲者が出ていることに気づく。
それと同時に、本隊のある皇都ルルノイエ周囲に広がる草原から、ゲオルグの一隊だけが微妙に離されたことを知った。
つまり、うまく相手の動きに乗せられて本隊から離された上、半数近くの戦力を奪われたことになる。

「あちらも必死だな」

このまま皇都ルルノイエが同盟軍に陥落すればハイランド皇国の滅亡は確実になる。
よって彼等は全力以上の力を出してこの戦に賭けてきている。
それが勢いと戦力的には上回っているはずの同盟軍が予想外に苦戦している理由だろう。

しかし、同盟軍の中でも一、二の戦力を誇るゲオルグの部隊にここまでダメージを与えたならば、相手の隊も同様かそれ以上の痛手を受けて居るはずだ。
率いる主将は相当の剛胆者に違いない。

「主将は誰だ?」

斥候役である脇の副将に問うと、ハイランド王国軍第四軍将軍、シード率いる一隊だと応えた。

「あれが噂に訊くハイランドの暴れん坊か。」

先刻すれ違いざまに剣先を交わした、あの燃えるような瞳を想い出して、ゲオルグは頷く。
どうりで命知らずなはずだ。
それと同時に、今まで彼に対して想像していたイメージを一部改めざるを得なかった。
噂ではただただ猪突猛進の猛将と訊いていたが、なかなかどうして、この敵味方入り乱れる乱戦状態の中、自軍を策略的に動かす力を併せ持っている。

このような優勢不利が刻々と入れ替わる泥沼戦局になってくると、もう初めに立てられた作戦の効力など最終目的以外は無くなるに等しい。
結果、隊を動かす判断は各隊を預かる主将に100%委ねられる。

主将はあらかじめ立てられた作戦を考慮に入れ、今自軍がどのような状態にあるかを把握し、最も被害が少なく、最も効果的な策を考案し選び取る責務がある。
つまり最も主将の力量が計られるのがこの場なのだが、まだゲオルグにとっては"小僧"でしかないあの若者が、ここまでの技量を見せたと言うことは賞賛に値した。

「ならば小細工は無用か。敬意をもってきっちりとこのお礼参りをせねばな。」

マントを取って軽くなった肩を軽く叩き首を廻すと、腰の剣を再び抜き取り、ゲオルグは上空に愛剣を掲げた。
その彼の挙動に、さざ波のように隊中に言い知れない緊張と、高揚が広がる。
幾多の戦や生死のやりとりを踏み越え、戦場にあっても無感動に冷めている自分の心が、強敵相手に久しぶりに躍るのをゲオルグは苦笑混じりに感じていた。


俺もまだまだ、か。


目前にはハイランドの猛将シード率いる一隊が、本隊との間を遮る形で立ち塞がっている。
彼等を突破せねば本隊に再び合流することは不可能だろう。


「全力を持って突破する。俺に続け!」


ゲオルグの低く、しかし力強い声に、雲一つない快晴のルルノイエ上空を、応える同盟軍兵達の勇ましい声が響きわたった。

作品名:カエルバショ 作家名:すずむし