no title
好きでいても、いいですか?
それともそれさえ、だめですか?
【それは少し、勝手すぎやしませんか? 3】
身体の下にはふわふわとした感触。
隣からはすやすやと穏やかな寝息。
辺りは真っ暗。けれど窓から月明かりが微かに入り込んでいて。
「って・・・」
ゆっくりとベッドから起き上がる。
途端に襲ってくるひどい吐き気。ずきずきと鈍い頭痛。
ふらりと揺らぐ意識に、あぁ飲みすぎたのだとようやく気付く。
酒場で散々飲んでいたところにゼシカが来たところまでは覚えているのだが、それからの記憶がどうも曖昧で、はっきりと思い出せない。
・・・なにか、ぐちぐちとゼシカにくだらないことを言った気もする。
どうか余計なことを喋っていませんようにと切実に思い、息を吐く。――酒臭い。
本当にどれだけ飲んだのだろう。自分で自分が酒臭いと思うなんて、よほど飲まないとないというのに。
鼻をつく臭いに顔をしかめていると、ふとある疑問が浮かんだ。
――いつの間に宿に帰ってきたのだろうか。
首を傾げて考える。
この酔い具合ではとても一人で帰ってこれるはずがない。
ゼシカだろうか。けれど酒場からこの宿まではそこそこの距離がある。
女性一人で運ぶのには多少無理がある。
・・・だとすれば。
自分をここまで運んでくれたのは、隣のベッドで穏やかな寝息をたてている人物なのだろう。
ちらりと視線をやると、彼は起きる気配もなく相変わらず眠りについていて。
顔を見ようとベッドから抜け出そうとすると、ギィ、と軋んだ音が静寂が支配する部屋の中に響いた。それが予想以上に大きな音で、起こしてしまわなかったかと咄嗟に立ち上がりベッドに近づいて顔を見たものの、変わった様子はない。ほっと息をつく。
――穏やかな顔で寝ている、ほんとうに。
すやすやという寝息に思わず顔が緩む。
なんだか静かに眠っている彼がとても神聖なもののようで、それとは反対に自分のどろどろとした醜さが引き立つような気がしてなんとなく目を逸らしてしまう。
ゴタゴタと、言い訳を重ねるつもりはないけれど。
我侭を言うつもりなんてないのだ、ちっとも。
けれど自分の行動が、思考が、――彼を想うことそのものが身勝手なのだ。そして彼を困らせる。
そのことが分かっていながら彼を想うことはやめられない。
それどころかその想いは弱まるどころか、日に日に強まっていくのだから始末が悪い。
「――しつこいオトコってヤだね」
自嘲するように言葉を吐き捨てて目を閉じる。
結局のところまだ諦めきれてないのだ。
想いを告げてしまったあの日、あんなにもはっきりと彼の気持ちを思い知ったというのに、心のどこかではもしかしたら・・・と期待している自分が確かに居て。
程、我侭を言うつもりなんてない、と思ったところだというのに。
どれほど矛盾をすれば気が済むのかと、呆れを通り越して笑えてきてしまう。
ゆっくりと目を開いて、寝ている彼に視線を向ける。――酔いのせいか、すこし意識が揺らいで。
それでも彼の顔ははっきりと見えた。
とても愛しい、と心から思う。
ベッドに置かれた手を両手でそっと優しく包み込む。
――これは酔っているせい、なんて苦しい言い訳をして彼の手にくちびるを一瞬だけ落として。
「ごめん、エイト。――やっぱり俺、どうしてもお前が好きみたい」
だから。
まだ、好きでいてもいいだろうか?
祈るような、言葉。
けれどそれはどうしても口に出せない。
もし口に出してしまったら、分かってしまうから。答えが。
だから決して口には出さない。
――あぁ、情けない。
自分はいつからこんなに弱く愚かになったのかと、項垂れるように頭を下げる。
こつん、と額が握ったエイトの手にあたって。
触れた部分から、想いが伝わればいいのに、と思う。
言葉だけでは表せないこの想いが、寸分違わず彼に届けば・・・そうしたら。
そうしたら、何かが変わるかもしれない、なんて淡く愚かな期待。
・・・けれどやはり、伝わらなければいいと思う。
きっと、彼は困ってしまうだろうから。
――自分が、彼に完全に拒絶されてしまうのが怖いから。
再び目を閉じると、つきんとした痛みが瞼を襲ってくる。
――だめだ、と思ったときにはもう既に手遅れだった。
開いた窓から入ってくる風がやたらと冷たくて、そのせいか頬をつたう"それ"はやたらとあつくて。
"それ"はなかなか止まらなくて。止められなくて。
「・・・ククール?」
掠れたような声が確かに自分の名前を呼んだ。
はっとして顔を上げる。
滲む視界の先に見えたのは、確かに彼の瞳だった。
それともそれさえ、だめですか?
【それは少し、勝手すぎやしませんか? 3】
身体の下にはふわふわとした感触。
隣からはすやすやと穏やかな寝息。
辺りは真っ暗。けれど窓から月明かりが微かに入り込んでいて。
「って・・・」
ゆっくりとベッドから起き上がる。
途端に襲ってくるひどい吐き気。ずきずきと鈍い頭痛。
ふらりと揺らぐ意識に、あぁ飲みすぎたのだとようやく気付く。
酒場で散々飲んでいたところにゼシカが来たところまでは覚えているのだが、それからの記憶がどうも曖昧で、はっきりと思い出せない。
・・・なにか、ぐちぐちとゼシカにくだらないことを言った気もする。
どうか余計なことを喋っていませんようにと切実に思い、息を吐く。――酒臭い。
本当にどれだけ飲んだのだろう。自分で自分が酒臭いと思うなんて、よほど飲まないとないというのに。
鼻をつく臭いに顔をしかめていると、ふとある疑問が浮かんだ。
――いつの間に宿に帰ってきたのだろうか。
首を傾げて考える。
この酔い具合ではとても一人で帰ってこれるはずがない。
ゼシカだろうか。けれど酒場からこの宿まではそこそこの距離がある。
女性一人で運ぶのには多少無理がある。
・・・だとすれば。
自分をここまで運んでくれたのは、隣のベッドで穏やかな寝息をたてている人物なのだろう。
ちらりと視線をやると、彼は起きる気配もなく相変わらず眠りについていて。
顔を見ようとベッドから抜け出そうとすると、ギィ、と軋んだ音が静寂が支配する部屋の中に響いた。それが予想以上に大きな音で、起こしてしまわなかったかと咄嗟に立ち上がりベッドに近づいて顔を見たものの、変わった様子はない。ほっと息をつく。
――穏やかな顔で寝ている、ほんとうに。
すやすやという寝息に思わず顔が緩む。
なんだか静かに眠っている彼がとても神聖なもののようで、それとは反対に自分のどろどろとした醜さが引き立つような気がしてなんとなく目を逸らしてしまう。
ゴタゴタと、言い訳を重ねるつもりはないけれど。
我侭を言うつもりなんてないのだ、ちっとも。
けれど自分の行動が、思考が、――彼を想うことそのものが身勝手なのだ。そして彼を困らせる。
そのことが分かっていながら彼を想うことはやめられない。
それどころかその想いは弱まるどころか、日に日に強まっていくのだから始末が悪い。
「――しつこいオトコってヤだね」
自嘲するように言葉を吐き捨てて目を閉じる。
結局のところまだ諦めきれてないのだ。
想いを告げてしまったあの日、あんなにもはっきりと彼の気持ちを思い知ったというのに、心のどこかではもしかしたら・・・と期待している自分が確かに居て。
程、我侭を言うつもりなんてない、と思ったところだというのに。
どれほど矛盾をすれば気が済むのかと、呆れを通り越して笑えてきてしまう。
ゆっくりと目を開いて、寝ている彼に視線を向ける。――酔いのせいか、すこし意識が揺らいで。
それでも彼の顔ははっきりと見えた。
とても愛しい、と心から思う。
ベッドに置かれた手を両手でそっと優しく包み込む。
――これは酔っているせい、なんて苦しい言い訳をして彼の手にくちびるを一瞬だけ落として。
「ごめん、エイト。――やっぱり俺、どうしてもお前が好きみたい」
だから。
まだ、好きでいてもいいだろうか?
祈るような、言葉。
けれどそれはどうしても口に出せない。
もし口に出してしまったら、分かってしまうから。答えが。
だから決して口には出さない。
――あぁ、情けない。
自分はいつからこんなに弱く愚かになったのかと、項垂れるように頭を下げる。
こつん、と額が握ったエイトの手にあたって。
触れた部分から、想いが伝わればいいのに、と思う。
言葉だけでは表せないこの想いが、寸分違わず彼に届けば・・・そうしたら。
そうしたら、何かが変わるかもしれない、なんて淡く愚かな期待。
・・・けれどやはり、伝わらなければいいと思う。
きっと、彼は困ってしまうだろうから。
――自分が、彼に完全に拒絶されてしまうのが怖いから。
再び目を閉じると、つきんとした痛みが瞼を襲ってくる。
――だめだ、と思ったときにはもう既に手遅れだった。
開いた窓から入ってくる風がやたらと冷たくて、そのせいか頬をつたう"それ"はやたらとあつくて。
"それ"はなかなか止まらなくて。止められなくて。
「・・・ククール?」
掠れたような声が確かに自分の名前を呼んだ。
はっとして顔を上げる。
滲む視界の先に見えたのは、確かに彼の瞳だった。