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青空に希望を見つけて

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僕が彼女のなんだったのか。それはもう、分からないことでした。
たまにこの子を見るたび切なさが僕を襲ってきます。ぎゅっと胸が締め付けられる気持ちが。
彼女よりもよく笑うこの子は、僕と彼女の宝物でした。大切な、大切な僕らの。
だけど、僕にとって一番大切なものは、やっぱり彼女でした。これから先ずっと。彼女以上に大切なものは生まれないのでしょう。
姉さんや親友とはまた違った、それでもなによりも大好きな彼女。
彼女の全部が好きでした。嘘じゃなくて、本当に。嫌な部分なんて不満な部分なんてなに一つありませんでした。
本当にそれほど僕は彼女に溺れていたのです。

だけど、その彼女が選んだ男には不満しか募りませんでした。頼りなくてひどく臆病者だったから。
彼が彼女を大好きだと言うことは分かります。それは痛いほど。想いを打ち明けることができたことだけは褒めるに値しましたが、その他の全ては僕にとって不満としかなりませんでした。
いつも一押しが足りないのです。―それは彼が臆病だったから。いつも後ろに構えていました。―それは彼が頼りなくそれでいて弱かったから。
彼のことを考えるたび僕は苛立ちます。今でも、これからもずっと。
何故彼女は彼を選んでくれたのか、彼と一緒になればいつか大きな壁に挑まなくてはならない生涯になると決まっていたのに。それは初めから、出会った当初から分かっていたことだったのに。
どうして。―僕には分からなかった。彼にも分からなかった。彼はいつもそれで悩んでいた。ずっとずっと、答えを導こうと。幸い頭だけは賢いのを利用して。
沢山の可能性を彼は考えた。彼女に彼は利用されているのではないか。―それはありえなかった。彼女はそんなヒトではなかった。彼はこの可能性を考えたとき自分を責め立てたと言う。彼女の愛のほうが彼の愛よりも大きかった。―それもきっと違う。そんな素振りは最期まで無かったように思ったから。彼女の優しさを彼が利用して縛りつけているだけじゃないのか。―もしそうだとしたら彼はどうすればよかったのか。
彼の考えは全て悪い方向へとしか転がりませんでした。
ここで彼が臆病な心を捨てて彼女本人にどうしてなのか確かめていれば、彼らはもっと幸せだったのでしょうか。彼女の笑顔を僕はもっと見ることができたのでしょうか。僕はもっと彼女を幸せに出来たのでしょうか。
彼と僕は同じなのです。身体も同じだし心も同じだし、僕が彼なのは分かっています。でも彼に対して僕はいつでも苦しみしか与えてきませんでした。
それが最善の選択なのか、彼女は幸せか。そんな疑問を投げ続けていたのです。それは彼女が隣にいる間もいなくなってしまった今でも相変わらず。

空を見上げると貴方を思い出す。彼女が幾度となく口にしていた言葉でした。大きな大きな空。見上げればいつもそこにある空。
どうして?と僕が聞くと、彼女はいつもにっこりと微笑んでしました。柔らかく、そして優しく。彼女が何を思っているのか僕には見当もつきませんでした。
僕は空を見上げてみました。青が広がっていました。すこし心が落ち着いてきます。僕とは似ても似つかない気がしました。


***


彼は自分のことを下に見すぎでした。一緒に旅をしていたころはそんなこと思いもしなかったのですが。
ものごとを深く考えすぎなところがあった気がします。私と一緒にいて彼が幸せだったのか。それはもう分かりません。
私はもう聞くすべを持っていないのですから。
窓から空が見えますね。私もそろそろあそこに向かうことになるのでしょう。
ここに残りたいと思う反面、私は少しあそこに行きたいとも思っていたのです。
そんなことを言ったらきっと貴方はまた、首を傾げるのでしょう。苦笑を浮かべながら。
ごめんなさい。私の考え方は貴方にいつも理解しがたいものだったのでしょう。私は伝えることがひどく苦手だったから。貴方とは違って誰かに分かりやすく伝えることが出来なかったから。
だけど、それでも理解してくれようとする貴方を微笑ましく嬉しく思っていたけれど、申し訳なくも思っていました。

貴方は頼りがいがあるわけでもなく、拳が強いわけでもありませんでしたね。
沢山考えて、唇を噛み締めて、いつも私のことを考えてくれていたようにも思います。私を笑顔にしようと幸せにしようと精一杯頑張っていてくれましたね。―とても嬉しかったです。
そのお陰か、私は自然に笑顔を浮かべることが出来るようになりました。…それは随分昔の話ですね。まだ旅の途中だったでしょうか。
貴方は見ていて可愛かったです。私は貴方を見守る位置でもいれましたし、いざとなれば貴方は私を守ってくれましたから。―そして貴方はそれをいつも否定しますね。僕は君を守れない。なんて思っていたのでしょう。
何も力だけが戦闘面で守ることだけが私を守ることには繋がらないのですよ。そう、貴方は賢いのにそう言ったところは馬鹿でしたね。
すぐに不安定になる私の心を暖かく満たし続けてくれたのはいつだって貴方ではありませんか。そうだったでしょう。だからこそ私は貴方を選んだのです。貴方なら私を幸せにしてくれる。空っぽになってしまった私という存在を満たしてくれる―そう信じたから。
そして貴方はそれを裏切りませんでした。私を私にしてくれましたね。
すこし不器用で見ている方も、もどかしくなるほど私たちはゆっくりと未来を歩いてきましたね。一言一言私のために言ってくれた貴方の言葉たちは、今でも私の中で生きています。
私は本当に愛されました。それはもう十分に。胸がいっぱいいっぱいで苦しくなるほど、私は貴方に愛してもらいました。
だからでしょうか。貴方が私が何を考えているのか理解できなくなってしまったのは、そのせいだったのでしょうか。
私たちの恋のカタチは始めから貴方の好きの気持ちから始まっていたのです、それを受け入れて私が貴方の優しさに包まれる。そして足りない私を埋めていく。―ああ、もしかしたら私は貴方を利用していたのかもしれませんね。自分が自分になるために。そんなつもりは微塵もなかったのですが。
もっと沢山のことを貴方に伝えてくれば良かったですね。こんなこと、今更考えても遅いのかもしれませんが。
ひとつ言っておきます。私は貴方のことが大好きでしたよ。だって最期に貴方のことしか考えられないのですから。あんなに大切だった妹のことを全然考えていないのですよ。自分でも少し驚いています。

私は貴方と一緒にいれて幸せだったのですよ。もう伝わりませんか?もう遅いのでしょうか。二人でいられる時間が短いことは分かっていたから、毎日を大切に壊れ物のようにしてゆっくり歩んできた私たちはもしかしたら、勿体ないことをしていたのかもしれませんね。
もっと急いで、沢山のことを貴方とするべきだったかもしれません。もっともっともっと…最期だと言うのにこれからを願ってしまいます。―可笑しいですね。私はこんなに幸せだというのに。世界中の誰よりも幸せだったと胸を張って言えるはずなのに。
ごめんなさい。私は結局、貴方に貰ってばかりでなにも返すことが出来なかったみたいです。こんなことに今気づくなんて私は愚か過ぎました。―私はそれほど幸せだったのです。
作品名:青空に希望を見つけて 作家名:雛.