青空に希望を見つけて
私の想い届いていますか。大好きですよ。貴方の性格が声が存在が…これほど私を満たしているのですから。
―もう伝えることが出来ないのは分かっています。ごめんなさい。―ごめんなさい、ジーニアス。
私は今から、貴方がいる青空へ。私が貴方を待つ青空へ。いつからか大好きな色になった青に手を伸ばして、そこへ飛びます。
***
僕は最期なんと言えばいいのか分かりませんでした。僕は必死に言葉を探していました。
知っていました。僕らの最期はこれで終わることを。僕らの宝物は僕の横でもう泣き叫んでいました。その宝物に僕は謝りました。僕が悪いんだよ、と。違う種族だったことは分かっていた。それでも一緒にいることを望んだのだから。
プレセア。掠れた声が僕の中からやっと出てきました。何度も何度も呼んできた彼女の名前は僕の中で一番大切な名前でした。恥ずかしくて気持ちが高鳴ってその名前を呼ぶのは今でも慣れていませんでしたが。
大好きだよ。これはもうほとんど声になっていませんでした。言ったとたん涙が溢れてきたからです。ごめんね、最期は笑顔で送り出してあげようってずっと思っていたのに。
彼女が身体を預けているベッドに僕は泣き崩れました。一度溢れた気持ちは、止まらなくて。まるで旅をしていたころの彼女が大好きな気持ちだけで心が支配されていた頃に戻った気がして。
僕は彼女に伝えたいことがまだまだ沢山ありました。僕は臆病だったからいつも一歩踏み出せなくて。今も、もう、自分の足で立っていられなくなってる。
ごめんねプレセア、僕は君を幸せにできたのか全く分からなかった。僕はね幸せだったんだよ。一緒にいることが出来て、僕の片思いで終わると思っていた恋が実って。それだけで一生分幸せだったんだ。
彼女の手が弱弱しく伸びてきた。表情は穏やかで、僕の大好きな笑顔を浮かべていた。その手は何かを掴むように伸びてきて、僕は思わずその手を握った。
彼女の最期に僕はこう言った。
「いってらっしゃい」
いつかまた会える日が来たら。それは僕だけの夢かもしれない。彼女は僕と一緒になんてうんざりかもしれないけど、それでもいつかまた会える日が来たら。
伝えることの出来なかった言葉を、今思いつく限りでも何百とあるような言葉を君に伝えるから。そして僕が君を幸せに出来たのか今度こそ絶対に訊いてみせるから。
だからどうか、僕が会いに行くまで待っていてほしい。
***
青空はこんなに暖かいものだったのですね。空に飛ぼうと伸ばした手は貴方に似た暖かさに包まれました。
やはり青空と貴方は私にとって同じものだったのでしょう。心細くなって見上げればいつも上にいてくれるのです。手を伸ばせば手を差し出してくれるのです。
身体がだんだん軽くなってきました。もう本当に最期のようですね。いえ、これから始まりだと考えれば私は笑っていけるかもしれません。
貴方を待てばきっと、貴方は私を幸せにしに来てくれるでしょう。何度も何度でも。そのときは、私が今伝えたかった気持ち全部貴方に伝えることが出来るのでしょうか。―弱気になってはいけませんね。今度こそはなんとしてでも伝えようと思います。
だから、私の元に来てください。ジーニアス。私は待っていますから。
「いってきます」
光差す空に私は笑顔で旅立った。
作品名:青空に希望を見つけて 作家名:雛.