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キス3題

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姫じゃないから目覚めない




 初めての口づけは夢のようだった。これはロマンチックだったという意味の比喩ではない。知人とキスをした、したというかされた。それは現実に起きたことだと思うのだが実は夢なのかもしれなくて、目下帝人の頭を最大に悩ませている出来事なのだ。

 最近帝人は眠りが浅いことがある。それは体調が優れないからではなく、単にネットで見た明晰夢を見る方法というのを興味本位で実践してみたからだ。明晰夢というのはいわゆる「夢と自覚して見る夢」のことで、そうした夢は自由意志で操れるため、現実には起こりえないようなことも出来て面白いという。明晰夢を見られるようになるための訓練法なども多く紹介されている。単純な好奇心から帝人もそれをやってみたところ、明晰夢を見られる段階までは行かなかったが、眠っているけれど半分だけ覚醒したような状態になることがあった。睡眠時、ふと眠っている自分と同時に、現実に起きている周囲の物音を聞いている自分に気がつくことがあるのだ。起きたときに聞いた内容をちゃんと覚えているかどうかは半々の確率なのだけれど。半覚醒時の感覚はふわふわとしていてひどく心地よく、たまにそうなることを帝人は困ったこととは感じていなかった。

 しかしそれも、半覚醒状態時に知人に口づけられた、と思うんだけど、でももしかしたら本当に寝ていて見た夢だったかもしれない、というそれこそひどくあいまいな状況に陥るはめになるまでだった。


 深夜に家の鍵があけられる、がちゃりという音に意識が半分浮上したところからそれは始まる。
 ーーーあれ、帝人君もう寝てるの?
 不法侵入してきた人物の、よく知った声。
(もうって、布団に入った時点でかなり遅かったし。そもそも外から電気がついてないの見えただろうに、それでも勝手に入ってくるとかどんだけ…)
 と自分が考えたことを覚えている。合鍵を渡したわけでもないのに鍵を開けられた程度のことは、日常茶飯事すぎて意識野に上らない。
 ーーーなんだ、つまんない。
 勝手な事をほざきながら、自分の隣にその人が来た、ように感じた。自分の寝顔をまじまじと注がれた視線を感じて、居心地が悪かった。意志で目覚められるものなら、目覚めたい、と思ったところで。
 ふにゃっとした感触を、唇に感じたのだ。
 絶対にそれは指などではなかったと思う。わずかにかかった相手の吐息の熱から考えても、あれは唇を落とされたとしか思えない。キスをされた。しかも寝ているときに!


 問題はこれが現実だったかそうでないかだ。


 恐ろしいことに、半分眠りながらも自分がそのくちづけを全く嫌悪感なく受け入れている自覚はあった。一度だけでなく、二度三度と繰り返されたそれは羽根で愛撫されているかのように心地よかった。その気持ちよさに負けて、結局本格的に覚醒する方向には至らずそのまま深く寝てしまったのだ。翌朝目覚めた時のなんとも言えない気分は表現しがたい。
 もしあれが現実だったとしたらコトだ。知人の、しかも男にファーストキスもそれ以降もいっぺんに奪われてしまったことになる。というか相手はどういうつもりでそんな真似をしたのか。考えるのも怖い。普段から多少奇怪な言動を見せる人物ではあるが、深夜に好きでもない人間の家に侵入して唇を盗んで帰るという暴挙にでるほどおかしくはないだろう。ならば帝人のことをそういう意味で好いているとでもいうのか。そんな馬鹿な。帝人の脳が思考停止命令を出す。
 では夢だった場合どうだろう。それはそれで問題に違いない。あんなにリアリティたっぷりに知り合いの男とキスをする夢を見て、しかもそれを心地よく感じていた自分はなんなのだ。そもそも夢というのは少なからず当人の深層心理を現しているというではないか。僕実はあの人とキスしたいとか思ってたのかな……いやいや、ない!ないよ!と首を振る。ここで思考は強制シャットダウン、それ以上深く考えることを拒んでしまう。

 かといって、全てなかったことにして忘れるにはインパクトのありすぎる出来事だった。せめて現実だったか夢かは知りたい。一番簡単なのは相手に尋ねることだろうが、簡単にそんな質問ができるくらいなら最初から悩むはずもない。「この前の夜、僕にキスしましたか?」なんて聞けるわけがないではないか。



作品名:キス3題 作家名:蜜虫