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たかむらゆきこ
たかむらゆきこ
novelistID. 9809
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白緑

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1. 土砂降りの雨の中



 なぁ、馬鹿野郎。誰がそんなことしてくれって頼んだよ。
 頼んでねェだろ?だいたいおまえ、いつもそうじゃねーか。
 なにもしない、寝てばっかりで、そのくせ頼んでもねェことやって面倒かける。
 嫌だっつっても、結局おまえにもってかれる、おいゾロ。
 いい加減にしろよ、てめェ。

 彼は見下ろす。甲板に突っ伏した男をただ、見下ろす。彼のしなやかな指先から、先ほど火をつけたばかりの煙草が落ち、彼自身もまたその場に崩れ落ちた。

 チョッパー、どこいった、チョッパー。早く来い。
 ヤベェんだ、おれも。こいつ運びてェけどそれができそうにもねェ。
 ああ、だが、それも言っちゃらんねェのか。

 そっと手を伸ばすと左肩に激痛が走り、使い物にならないことを知った。なら右手。左よりは幾らかましだろう。



 雨がひでえ。



 彼の目に映るもの、それはとてもつらい風景。ピクリとも動かない仲間の姿。仲間、そう、大切な仲間だ。冷たい雨が、二人に容赦なく降り注ぐ。おそらく目の前の倒れた男には、この冷たさは理解できてないだろう。
 雨の所為で流されてしまった赤は、自らの感覚を少し麻痺させつつある。雨の中で流され続ける血液。体中の血が抜けきってしまったのだと、錯覚させた。
 否定できないような肌の色。

 体を酷使させ、彼はその男を担いだ。痛みの少ない右肩で体を窮屈に支える。

 重いんだよ、てめェ。デカイんだよ、てめェ。
 いい加減、目ェ覚ましてくんねェか。
 おまえなんかここに放ったらかしてたっていいんだぜ。





 ああ、頼むから、
 誰か早く迎えに来てくんねーかな。


 ルフィ

 ウソップ

 チョッパー

 ナミさん

 ロビンちゃん


 誰でもいいから、早く来てくれ。
 おれ一人じゃ支えきれねーんだ、こいつを。

 おれ一人じゃ、どーにかなっちまう。
 頼むから、なあ、安心させてくれよ。


 ゾロ、まだ生きてるから大丈夫だ、って、


 なあ、安心させてくれよ。










 前が見えないのは雨の所為か。そうじゃないのか。

「起きろよてめェ!」

 意識を飛ばす直前に大声を出してみた。意識のない男に向かって、大声を出してみた。眉が動いたと思ったのは気のせいか。瞳を閉じてしまったおれにはもうなにもわからなくて。ああ、でも聞こえた。心配性な船医の声が、遠くから。

作品名:白緑 作家名:たかむらゆきこ