白緑
1. 土砂降りの雨の中
なぁ、馬鹿野郎。誰がそんなことしてくれって頼んだよ。
頼んでねェだろ?だいたいおまえ、いつもそうじゃねーか。
なにもしない、寝てばっかりで、そのくせ頼んでもねェことやって面倒かける。
嫌だっつっても、結局おまえにもってかれる、おいゾロ。
いい加減にしろよ、てめェ。
彼は見下ろす。甲板に突っ伏した男をただ、見下ろす。彼のしなやかな指先から、先ほど火をつけたばかりの煙草が落ち、彼自身もまたその場に崩れ落ちた。
チョッパー、どこいった、チョッパー。早く来い。
ヤベェんだ、おれも。こいつ運びてェけどそれができそうにもねェ。
ああ、だが、それも言っちゃらんねェのか。
そっと手を伸ばすと左肩に激痛が走り、使い物にならないことを知った。なら右手。左よりは幾らかましだろう。
雨がひでえ。
彼の目に映るもの、それはとてもつらい風景。ピクリとも動かない仲間の姿。仲間、そう、大切な仲間だ。冷たい雨が、二人に容赦なく降り注ぐ。おそらく目の前の倒れた男には、この冷たさは理解できてないだろう。
雨の所為で流されてしまった赤は、自らの感覚を少し麻痺させつつある。雨の中で流され続ける血液。体中の血が抜けきってしまったのだと、錯覚させた。
否定できないような肌の色。
体を酷使させ、彼はその男を担いだ。痛みの少ない右肩で体を窮屈に支える。
重いんだよ、てめェ。デカイんだよ、てめェ。
いい加減、目ェ覚ましてくんねェか。
おまえなんかここに放ったらかしてたっていいんだぜ。
ああ、頼むから、
誰か早く迎えに来てくんねーかな。
ルフィ
ウソップ
チョッパー
ナミさん
ロビンちゃん
誰でもいいから、早く来てくれ。
おれ一人じゃ支えきれねーんだ、こいつを。
おれ一人じゃ、どーにかなっちまう。
頼むから、なあ、安心させてくれよ。
ゾロ、まだ生きてるから大丈夫だ、って、
なあ、安心させてくれよ。
前が見えないのは雨の所為か。そうじゃないのか。
「起きろよてめェ!」
意識を飛ばす直前に大声を出してみた。意識のない男に向かって、大声を出してみた。眉が動いたと思ったのは気のせいか。瞳を閉じてしまったおれにはもうなにもわからなくて。ああ、でも聞こえた。心配性な船医の声が、遠くから。