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2. 千慮一失
そんなとこしてたら今度はサンジが倒れちゃうよ、船医の声がラウンジに響く。言われた当人は拗ねたような笑みを湛え、悪い、チョッパー、こうでもしないと気が済まねェんだ、小さく言って首を緩く横に振った。
「言い出したら聞かねーからなぁ」
「サンジ君、わかったけど無理はしないでね?」
大きな敵船と一戦交えた麦わら海賊団。失態を犯したのは剣士だった。胸に一発の銃弾を受け、重体。手当てを施し、治療を施した船医は言う。目が覚めれば大丈夫だと思う、でも、覚めなかったら──‥
同じ敵船に乗り込んだサンジは無表情で言った。こいつが悪い、でも、それはおれの所為でもあると。まるで自らを責める様な口調で、表情で。だから他の仲間たちも、余計な言葉をかけることなどできなかった。
人のいなくなったラウンジで、サンジは思い出していた。
男が「失態」を犯した時のことを。
目の前で、至近距離で、あいつは赤を散らして跳ねた。
その銃弾は、本当ならば自分に当たってたはずだった。
一向に目の覚める気配のない男にサンジは問う。
なんでおれなんか庇ったりするんだよ。
目覚めた男は言うだろう。別に庇ってなんかねェ、体が動いただけだ。あぁ、言うに決まってる。実際そうだ、おれにもそれはわかる。仲間の危機に、勝手に体が動いただけ。自分だってそんなことはしょっちゅうだ。
だがな、おまえなんだぞ。おまえのそんな場面、今まで一度も目にしてねェ。酷ェ言い方だが、仲間のために死ねるやつじゃないだろ。生きなければ己の野望を貫けない、おまえはそういう男だ。
自惚れだって言いたいなら言えばいい、馬鹿じゃねェかって思うんなら思えばいい。だけど、なぁ、これは相手がおれだから。いっそのこと、おれがただの仲間だったら、おれがおまえのただの仲間だったらよかったのに。ただの仲間だったら、倒れたおれを見ておまえもあいつらと同じように心配して。自分のミスだ、こいつが悪ィ、そう言うだろうな。おまえがおれを庇って、こんな状態になるようなこともなかった。
おれは、おまえが庇う側の人間じゃねェはずなんだ。
ルフィと同じだろ?おれはナミさんとは違うだろ?
おれだって、そっち側の筈なんだよ。
もう嫌なんだ、誰かの、
誰かの夢を喰っちまうのは。