THW小説② ~Full Moon Vacances~
バチン,と目を開けると,もうとっくに日は昇っていた。
・・・あれ?
一瞬,自分がどこに居るのか,理解できない。
ゆるゆると頭を振りながら身体を起こし,昨晩の状況を思い出す。
「・・・生きてる。」
・・・奇跡だ。
自分がしでかしたことを思い出して(未遂だけど),よく生きていたと思う。
・・・満月の魔力のおかげかも,しれない。
「・・・うげっ」
これから自分がしなければならないことも同時に思いだし,思わず変な声をあげてしまった。
途端に,憂鬱になる。
「・・・ちょっと,代償にしては,重過ぎねぇか・・・?」
これじゃせっかく生きていたのに,生き地獄だ。
なんて,ボヤいてみてもしょうがない。
「やだなー・・・」
心底,気が進まなかったが,俺は本部へとのろのろ歩き出した。
本部へ戻ると,そりゃもうバタバタと大変な騒ぎになっていた。
蟻の巣をつつくってこういうことかもしれねぇな。
なんて思う間もなく,怒鳴り声が飛び込んでくる。
「碧風さんっ!!どこいってたんですかっ!!」
血相を変えた副隊長が,俺を見つけるなり,ズカズカと派手に足音をたてて近づいてくる。
「あ,すみません,副隊長,あの・・・」
「隊長がっ!!隊長がいないんですよっ!!行方不明なんですっ!!」
俺の胸ぐらをつかんで,ぐわんぐわんとゆさぶる。
「え・・・と,そのことなんですけどね・・・」
だが,副隊長は俺の言うことなんざ聞いちゃいない。
「今,全部隊を隊長捜索に向かわせるために,準備しているところなんです!!碧風さんは,第五部隊,ジンさんの指揮で・・・」
目の前でわめく副隊長の言葉を聞きながら,げっ,と思った。
やっぱり,そういうことになってんのかよ・・・。
「ちょ,ちょっと副隊長,落ち着いてくださいよ・・・!」
思わず,副隊長の両肩をガッとつかむ。
ゆっくりと目線を合わせ,俺は覚悟を決めた。
「その捜索,ちょっとまった,です。」
「・・・何か,理由をご存知のようですね・・・??」
副隊長の目が,スッと細められる。
・・・怖い。めちゃくちゃ,怖い。
だが,このまま全部隊を捜索に向かわせるわけにはいかない。
「・・・お伝えしなければならないことがあります。」
「・・・ほう。では,こちらへ来ていただきましょうか・・・。」
副隊長は,全部隊待機の命令を出し,俺を個室へと促した。
・・・取り調べだ・・・
これから行われるであろう事を想像し,トボトボと肩を落として,副隊長の後へと続く。
「・・・あーあ・・・碧さんかわいそ・・・」
全ての事情を知った上で,隊長捜索の準備なんて微塵もしていなかったジンさんが,クスッと物陰で笑っていたことなんて,知る由もなかった。
それから,副隊長との,マンツーマンでのお話(取り調べ)は,小一時間にも及んだ。
「バカンス!?全く,あの人は・・・!!どうして無理矢理にでも連れ戻してこなかったんですかっ!!」
バン!!と机を叩いて,唾がかからんばかりの勢いで,副隊長が俺に詰めよる。
・・・・俺がサビにかなうわけ,ないじゃん・・・・
喉元まで言葉が出かかったが,ぐっと抑える。
副隊長も,俺の実力を知っているはずだし,ただ勢いで言っているのもわかる。
そして,俺が「あんな事」を仕掛けた代償。
こっちの事情は言えるはずもない。
俺はなんの反論もできず,ひたすら副隊長のお小言を聞いていた。
「まぁ,でも,碧風さんに責任はないですよ。勝手な行動してるのは隊長ですからね。むしろ,隊長を見つけてくださり,ありがとうございました。」
だんだん落ち着きを取り戻した副隊長が,コホン,と咳払いをして,ポンポンと俺の肩を叩いた。
・・・晴れて,俺は無罪放免となった。
それからは,副隊長がテキパキと見事に指示を飛ばし,部隊も落ち着きを取り戻してきている。
「大変でしたね,碧さん」
ポン,と背中を軽く叩かれる。
振り向くと,ジンさんがクスクスと笑っていた。
「あ―・・・うん。副隊長も,隊長バカだからさぁ・・・」
「『も』?」
いたずらっ子のように,ニヤンと笑うジンさん。
「!!いや,その・・・」
「・・・満月をバックに,なんて,超いいシチュでしたよ,碧さん。」
「ぶっ!!!」
思わず,盛大に吹き出す。
「・・・見てた?」
「ハイ。」
一気に俺の頭は大混乱する。
流石は攻特隊が誇るナンバーズの一角。
気配なんて微塵も感じられなかった。
恥ずかしいやらなんやらで,まともにジンさんの顔が見れない。
「・・・・あ―・・・,いや―・・・その・・・」
なんとか誤魔化そうとしても,全く言葉が出てこない。
「惜しかったですね。」
「は?」
想像していた言葉とは全く違い,びっくりしてジンさんを見る。
「もう少しだったんじゃないですか?あ,私,そういう偏見とかありませんから。応援してますよん♪」
そう言って,ぽかんとしている俺を残し,彼は口笛を吹きながら,どこかへ行ってしまった。
・・・かくして,今日も今日とて,攻特隊は平和だ。
いつもと違うのは,隊長の不在。
そして,時々届く,隊長からの手紙。
「やる気スイッチ見つかるまで,もうちょっと待ってね♪」
あっけらかんと,そんな一文。
どこぞで,バカンスを楽しんでいるのだろう。
しかし,せかせかと働き詰めの副隊長を見ていると,倒れやしないかと気の毒にもなる。
あの人,真面目だからなー・・・。
トップに立つ人間は,どこかズボラで大雑把な方がいいと聞く。
だから,皆,ザビの帰りを待っているのかも,しれない。
「土産,いいの持って来いよ―――」
少し欠けた月に向かって,俺はぽつんとつぶやいた。
END
2011.01.09
作品名:THW小説② ~Full Moon Vacances~ 作家名:碧風 -aoka-