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THW小説② ~Full Moon Vacances~

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「・・・やる気,なくなった。」
「・・・はぁ?」
ぽつん,と言葉を紡いだかと思ったら,とんでもないことを言い出す。
「ん〜〜,なんか,何もかも,どーでもよくなった・・・」
「ほぉ・・・」
燃え尽き症候群,てやつか。
がむしゃらに突っ走りすぎている人間は,たまにこうなると聞く。
・・・そうか?
なんだか,いつも大雑把に構えていたような気がするが。
・・・それとも,何か他に原因が。
こいつがおかしくなったのは・・・・
「今日の作戦だろ。何かあったのか?」
「・・・別に。」
明らかに,今日の作戦がきっかけだったとは思うのだが,それきりザビは口を開かない。
まぁ,もし,機密事項に関することだったら・・・
後々,面倒なことになるから,あえて追求はしなかった。

「・・・で?」
ズズっと横にずれ,ザビとの距離をつめる。
「これから,どうすんだ?」
「・・・さぁ?」
ザビの目線は宙に浮いたままだ。
「・・・なぐさめて,ほしい?」
いつも強気で破天荒なヤツが,こう弱っていると面白い。
スッと肩へ手を伸ばそうとすると・・・
バチバチッ!と,手にしびれが走った。
「・・・って!何すんだよ!」
「そりゃこっちの台詞だ。お前なんぞになぐさめられるほど,俺は落ちぶれちゃいない。」
フイっと横を向き,心底嫌そうにつぶやく。
「ひでぇ言われようだな。相変わらず,つれないねぇ。」
・・・まぁ,そこが堕とし甲斐があんだけど。
とは,死んでも口に出せない。

だが,これは千載一遇のチャンス。
人の弱みにつけこむなんて最低だが,相手はザビだ。
手段は選んではいられない。


「・・・なぁ。」
まだ,明後日の方向を向いているザビの腕をぐっと引き寄せ,身体をこちらへ傾けさせる。
ザビの後頭部に手を回し,自分の肩にグイっと押し付けた。
ビリビリっと全身にしびれが走るが,構わない。
ザビも,本気で俺を黒焦げにしようとは思わないらしい。
しばらく,そのままにして,空いた手で背中をさすってやる。
「誰にも弱みを見せられないのは,わかるけど,よ。」
ザビは,おとなしくなすがまま,俺の言葉を聞いている。
「たまには,こういうのも,いんじゃね?」

満月は,人を狂気へと誘う。
いつもからは想像もできない,今の自分たちの状況。
俺も,ザビも,満月にあてられたのかもしれない。

「俺は,トップなんざなったことねぇから,わからねぇけど・・・」
ピクン,とザビの身体が震える。
だが,構わずに言葉を続けた。
「たまには,何もかも忘れてさ,バカンスとかいんじゃねぇの?」
ふっとザビの身体から力が抜けたと思うと,ポカンとした顔で俺を見上げてきた。
「いんじゃね?バカンス。俺と二人で,さ・・・」
そのまま,唇をふさごうと・・・顔を近づける。

バチバチバチバチッ!!!!!

突如,目の前がスパークして,真っ白に染まる。
瞬間,意識が途切れそうになった。


「フン。バカンスね。いいかもしんねぇ。」
ザビはスクッと立ち上がり,雷撃を受けて身動きできない俺を見下ろした。

「テメッ・・・!!こらっ・・・!!」
さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら。
・・・・・調子,乗りすぎた・・・・・
後悔しても,後の祭り。
だんだんと,意識が朦朧としていく。
「俺はバカンスに行く。しばらく攻特隊はまかせた。・・・お前,そう近江に言っといてくれ。」
ニヤン,と笑って俺を見下ろしながら,そう言い放つザビ。
「じゃ―――――なっ!!」
そのまま,ピョーンと満月に向かって,瓦礫を飛び下りていった。
・・・俺一人を残して。
「ちょ・・・!こらっ・・・!冗談じゃねぇぞっ・・・!」
ザビの雷撃は強烈だ。
意識は俺の意思に反して,どんどん遠ざかっていく。
・・・その中で,「副隊長に報告」という一番やりたくない任務を想像し,なおさら気が遠くなった。

まぁ,自分がけしかけたことだ。
しょーがない。
それと,俺への罰か,こりゃ。
今,敵が来たら,どうすんだ・・・?

グルグルといろんな事を考えながら,俺は本当に意識を手放した。

瓦礫の下で,青髪のその人が,ニンマリと一部始終を見ていたことなど知らずに・・・