医者パラレル
静雄はデスクにあったボールペンを手に取り、付箋に同じ言葉を書きつけ、内線電話に張り付け、部屋を出た。
* * *
呼び出しのコール音で臨也は目を覚ました。
「はい、精神科の折原です」
そう寝ぼけた声で言うと、急患の連絡だった。
「分かりました、……はい、今は落ち着いていると。すぐ向かいます」
臨也は受話器を置いた。すると電話には「洗ってアイロン掛けて返せ」と辛うじて読める汚い字の付箋が貼られていた。なんだこれはと思いつつ仮眠用のベッドから降りようとしたところでふと思った。そういえばなぜ自分は仮眠用のベッドで寝ているのか。記憶は喫煙所で途切れていた。そして自分にかかっている薄手の衾以外の、白衣。よく見ればそれは先ほどまで掴んでいたものではないだろうか。明らかに皺がその形で残ってしまっている。首のタグを見れば律儀にも「平和島」と油性ペンで書いたらしい滲んだ文字があった。
「……ははは」
思わず乾いた笑いが出た。そして臨也は頭を抱えた。
「最悪……」
他人様の、しかも静雄の白衣を抱いたまま寝るなどまったくもって信じがたいことだった。子どもか自分は。臨也は自分を嗤った。しかしそのまま悩んでいることはできない。臨也はのろのろと立ち上がると、アンダーとワイシャツを着替え、新しい白衣を着なおして部屋を出た。