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織牛 宮彦
織牛 宮彦
novelistID. 21680
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そのままのお前が良い

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「ツナミ…ブーストォォ!」

波にのるようにして繰り出されたオレの技に、立向居がオレンジ色の光で応戦する。

「ムゲン・ザ・ハンド!」

現れた無限の手に、あっけなく包まれたかのように見えたボールだったが、次の瞬間一つの手にヒビが入る。

「…っく」

なんとか堪えようとした立向居だったが、一つのヒビから伝染するように、無限の手は一瞬で砕けた。
立向居がなんとかはね返したボールを小脇に抱えて、しゃがみこんだ立向居に手を差し出す。
立向居は苦笑いしつつオレの手をとって立ち上がった。

「やっぱり、まだまだですよね」

「んなことねーよ、オレのツナミブーストをはね返したんだからな!」

笑い掛けると、立向居の目元が笑みを形どる。そんな小さな微笑みにさえも、愛おしさを感じた。
壁にもたれながらスポーツドリンクを一気飲みしていると、立向居がふと空を見上げた。
夕方になってもうすっかり橙色に染まっている雲を眺めて、立向居は夕日の光に目を細める。そんな立向居の一挙一動に見惚れてしまっていた。ふわり、と優しい風があたりに吹いた。
遠い目になっていた立向居はすぐそばの壁にもたれ、なにげなく言葉を切りだす。

「俺、円堂さんみたいになりたいのに」

『円堂さん』の単語にオレの目が厳しくなってしまった。それに気付かず、立向居は話を止めない。立向居の瞳は円堂の背中を見ていた。

「…円堂さんは、まだこんなにも遠い」

…どうしてだよ?
この「どうして」は理不尽なのかもしれない、けれど。
(どうしてお前はアイツのコトしか見ていない?)

「…どうしてなんだよ!!」

考えるよりも先に怒鳴っていた。怒鳴ると同時に体も動いていて、立向居を壁に追いつめるように向かいあう。立向居の驚いた顔。違う。俺はお前にそんな顔させたいんじゃないんだ。
けれど。言葉が止まらない。

「…『円堂』になんかならなくていいじゃねぇかよ。オレはそのままのお前で良い!そのままのお前が良い!!」

「綱海、さ…っ!」

驚いた声でオレの名を呼ぶ立向居の口を、キスでふさいだ。

「…オレは、お前が好きなんだよ、立向居…!!」

呆然とする立向居を置いて、振り返らず走り去った。