そのままのお前が良い
グローブをしっかり身につけつつ、立向居がゴール前に立つ。両手をパン!とたたき、構えて、言ってくる。
「お願い、します」
この特訓で最後になってしまうだろうと思いながら、ボールを地面に置く。
ゴールを、しっかりと、見据える。
「ツナミ…ブーストォォ!!」
キまった。そう確信するほどのツナミブーストだった。我ながら最高のシュート。
「ムゲン・ザ・ハンド!!!!!」
オレンジ色の光が広がり、無限の手が現れる。そしてボールはあっけなく包まれたかのように見え… 「!」
今度は自分がひるむ番だった。本当にあっけなく包まれたのだ。以前と変わらなく見えるその技に、力強さを感じさせられた。
そして、やがて…ボールはしっかりと立向居の手の中に納まる。
「す…っげ…!」
驚きに言葉が詰まった。立向居自身もとても驚いた、そして嬉しそうな表情をしていた。感極まって思わずギュっと立向居を抱きしめていた。
「やったな立向居!びっくりしたぜ!」
そこでやっと立向居の顔が真っ赤なのに気がついた。三日前の事を思い出した。
いくら鈍感な立向居でも、さすがに俺の気持ちに感づいたのだろう。
「あ…っと、すまねぇ」
謝りながら両手を離す。離れようとしたが、なぜか体が動かない。ふと下を見ると、オレの服を両手でつかんで離さない立向居が居た。
「綱海さん、離れちゃ、嫌です」
立向居が、ぎこちない手つきでオレの体に両腕をまわして、抱きついてきた。
「あの後、ずっと考えてて、気付いたんです。俺…」
そこまで言って、立向居が顔を隠すようにオレの胸にうずまる。なにやらとても可愛い仕草に半混乱気味になってしまいながらも、立向居の小さな小さな声が耳に届く。
「俺、綱海さんの事、好きみたいです」
耳を疑った。見おろすと、耳が赤くなった立向居の頭があった。
「…ぇ、もう一回言ってくんねぇ?」
聞き間違いではなさそうな立向居のリアクションに、だんだんと遅れて喜びがこみ上げる。と同時にいじめてみたい心もつのって、もう一回言って欲しくなった。
「…ぇ、もう一回言ってくんねぇ?」
案の定立向居は嫌がった。
「い、いいいいい嫌です!!」
「もう一回!!」
立向居はそこでバッと顔を上げた。すごく真っ赤になっていた。
立向居は背伸びし、キスしてきた。
「…これで、いいですかっ!」
「…うん、大歓迎」
「…俺なんかで、いいんですか?」
「あぁ」
そのままのお前を愛してる。
作品名:そのままのお前が良い 作家名:織牛 宮彦