in the gathering dusk
2.
夕日が街を燃えるように照らし出す。同じく茜色に染め上げられた帰路を、俺はとぼとぼと歩いていた。部活のない放課後というのはこんなにも退屈なものだったのか、などという思考が頭を過ぎった。
「風丸一郎太くんだね?」
朝とは違い、聞き慣れない声に呼び止められた。
反射的に足を止め、声のした方を振り返る。すると、落ち行く夕陽が作り出した長い影から痩身の男が姿を現した。
「?」
見ず知らずの男にフルネームで呼び止められるなど、怪しさ極まりない。呼び掛けには答えずに、怪訝そうに見やると、男は俺のその様子をみて苦笑した。
「まあ、そう怖い顔をしないで下さい。実は雷門の試合を何度か見た事がありましてね。君の活躍も拝見してました。実に、興味深く、ね」
「俺はもう、…関係ありませんよ」
「そうそう、イナズマキャラバンを下りられたそうですね」
「ええ。だから、俺には関係ありません。失礼します」
踵を返し夕陽に染まる道を再び歩き出す。
「だからこそ、お役に立てると思いましてね。力が、欲しいのでしょう?」
その言葉に、思わず足を止める。少し間をおいてから、コツコツと革靴が近付いてくる音がした。
「君はよく努力した。格段に速くなったし、強くなった。ただあともう少し、君の持てる力を引き出してくれる切欠があればいいだけです」
ふと、視界が翳る。男が目の前に立ったのだ。夕陽を反射する茜色だった道路が、視界から消えた。目の前の男を見上げると、男はその頬を少し緩めたようだった。
「コレを。きっと君の役に立つ」
チャラッと微かな音を立てて、俺の前に差し出されたのはひとつの石だ。その石は眩く、それでいて静かな色をした光を自ら放つ不思議な石だった。
「これ、は……?」
「これは君を助けてくれる石。力を与えるもの」
「力を…?」
「ええ。さあ、どうぞ。これは君のものです。強く、なりたいのでしょう?」
吸い寄せられるようにその石に手を伸ばす。指先で少し触れると、男は俺の手を取り、その石をゆっくりと掌に収めた。
その瞬間、まるでその光が全身を覆うような、言葉に出来ない感覚に襲われた。でもそれは一瞬のことで、後には体内から溢れ出るような力を感じた。
「強く、なれる」
「さあ、一緒に参りましょう。最強の、チームになる為に」
その言葉に導かれるように、俺は再び歩きだした。
いつの間に時間が進んだのだろうか。夕陽に染められていたはずの道は、いつの間にか冷たい印象を与えるだけのアスファルトに戻っていた。歩いていた道だけではない。塀も屋根も木々も鳥も――そこにあることは分かるのに、どれも薄い膜に覆われたように判然としない。
「ようこそ、ダークエンペラーズへ」
だが、迷うことはなかった。導く声と、この力さえあれば。
なあ円堂、どうしよう。
………俺にはもう、お前達が見えないんだ。
作品名:in the gathering dusk 作家名:とびっこ