心の旅
よしよし、と腕の中に抱き込んだアムロはそのままに、クワトロがゆっくりと危険な微笑を浮かべて顔を上げる。
「では、あれかね。私は艦長のことを、『あ・な・たv』とか、『ダーリンv』とでも呼べばいいのかね?」
ブライトがそうきたか、とがっくり項垂れる。
「勘弁してください……俺にはミライが」
「なぁに、ほんの現地妻でいいのだろう?素敵な家族を持てて、泣きたくなるほど幸せだよ」
その後で、カミーユにも先程の少年に負けないほど冷たい底冷えする視線を送る。
「この広い宇宙、せっかく巡り会えた家族同士、仲良くしましょうね、カミーユちゃん?」
クワトロの取って付けた猫なで声に、ぞわり、とカミーユの全身に鳥肌が立つ。
「寒っ!今、艦の温度自体が五度くらい下がりましたよ大尉!寒っ!!!」
「なぁに、私の役割を決めたのは君じゃないか。君もグリプス戦役でご両親を亡くして淋しかったんだろうな、今まで?気付けずに済まなかったな。私で良ければ、幾らでも努めてやろうじゃないか。さぁ、遠慮なく心の底からお母さんと呼んでくれたまえ。ママンvでも構いはしないぞ?」
「構います!!勘弁してください!!」
「私だってイヤに決まっている!」
「だったら自爆しないでください!」
一触即発の言い合いをまさに始めようとしたクワトロの胸元を、アムロが服を掴んで引っ張る。
「お母さん、お姉ちゃんをあんまり叱らないであげて?」
「勿論だとも、アムロ。お姉ちゃんは素直じゃないから、私に会えて嬉しいのをかくしているだけだということもね?」
「言ってませんが!」
「聞いていない!」
ホームドラマというより、地獄の釜の底が開いたという感じなんだが、と疲れ切ってぼんやりとした思考の頭を抱えながら、ブライトはお父さん、お母さんに会えて嬉しいよね!という問いかけに力無く手を振るのだった。
ロンド・ベルの災難に満ちた日常は続く。