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まとろはきづいてしまったの

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冗談キツいぜーって笑い出したのは確か烈斗くんよ。
私の目を覗き込んでから言ったからよく憶えてるわ、本当に失礼しちゃうんだから!
雪がコンコンと降っている日に私はふっと(本当に「ふっ」とよ)思い出したことを口に出したの。
そうしたら烈斗くんはミルクを啜りながら冗談キツいぜーっと笑って流ちゃんはお箸をポロンポロンと落っことしたわ。
紺子は聞こえなかったみたいで目をパチパチやってから鮭焼きを飲み込んで私に「何ンが?」って尋ねてきた。
イヤになっちゃう、どうしてこう私の友達はトボけた子が多いのかしら。いっつもいっつもそうね。
食いしん坊な紺子はいつでもお菓子か、そうでなければご飯を食べていて、私の話なんて二の次なの。
この間だってそうよ、私がパパの誕生日プレゼントに何をあげようかしら?クダンチーズのフロマージュとハリー・ポッターみたいな縞のネクタイとビリーバットのピンバッチの中から選びたいんだけどどれが一番かしらって相談をしているのに彼女は板チョコレートをポリポリやって上の空だったのよ。酷いと思わない?
私は仕方がないから紺子のためにもう一度言ったわ。「アフロディは室戸照美よ」って!
そうしたら烈斗くんがまた笑うからとうとうイヤーな気持ちになったわ。
私は真実を語っているのにどうして笑われなくっちゃイケないのかしら?
だって本当のことなのよこれは、私の記憶の限り、いいえ、心に誓って現実なの。
保育園から小学校2年生まで一緒に過ごしたロシアーニの室戸照美を、私の幼馴染である流ちゃんや、ご近所に住んでいた烈斗くんが憶えていないはずないもの。
紺子は中学に上がった頃に青森からやってきた転校生だから解らないかも知れないけど、世宇子中学校のアフロディのことはサッカー部のみんなでビデオを見たから解ると思うわ。
室戸照美(私は照美ちゃんと呼んでいたわ)はその昔、きれいなきれいな男の子だったの。
生クリームみたいな明るいベージの肌に、グレー味のかかった白っぽい銅色のさらさらの髪の毛、それから薄いブルーの瞳をした、ハスキー犬のミニチュアのような年下の男の子。
北海道の子って結構掘りが深い子が多いんだけど、照美ちゃんはそんなニセモノとは一線を画したお顔でね、パパは駐屯露兵なのよって、照美ちゃんとはあんまり似ていない照美ちゃんのママは言っていたわ。まぁ、噂のロシア人なパパを見たことはなかったけれど…。
小っちゃかった私はそれを丸ごと信じたわ。だって疑う余地なんてなかったもの。
照美ちゃんはロシアのお歌がとっても上手で、何より、青空が映りこんだ氷色した瞳がとてもきれいだったのよ。
私が白いお花を編んで腕輪にしてあげると、決まって喉の奥でルルルって飴玉を転がすみたいな笑い声をたてて喜んでくれたわ。いっとうファンシーで、ダントツ素敵な、私の可愛い弟のようだった照美ちゃん。
そんな照美ちゃんはある日突然、いなくなっちゃって、私、とびきり悲しかった…。
その日は一緒にピングーのビデオを見る約束をしていてね、とっぷり日が暮れて、100%のオレンジジュースをこぼしちゃったみたいに夕陽に染まったブランコに乗っかっていつまでもいつまでも待ったわ。
でもひどくしばれるから、私ったらしょんぼりしてしまって、4時45分の鐘が鳴るのに任せてお家に帰ってしまったっけ。
次の日、学校に行っても照美ちゃんはいなかった。次の次も、そのまた次も、ずっと。
一週間経ったくらいだったかしら、照美ちゃんとクラスメートだった吹雪くんが私を捕まえて、いきなり言ったわ。
「真都路チャン、室戸クンは死んじゃったみたいだョ」
その一言に頭にガーンと雪玉を投げつけられたみたいに、私は目が回ってしまった。死んじゃったって、何が?どうして?
吹雪くんは前々から照美ちゃんと仲が良くなかったから、ズル休みをしていると思ってイヤな嘘をついてるんだわって思った。
でも、吹雪君に連れられて4組に足を踏み入れた途端に、私の目は捉えてしまったのよ。後ろの方の席に、ポツンと百合の花が飾られているのを。
活けたての若花はぽたりぽたり水滴をこぼしていて、まるで泣いているみたいだったわ。
分厚いタイツをはいているのに、私の足はガクガク震えて、もうわけが解らなくなっちゃって、たまらなくって、ランドセルを置いたまま学校を飛び出したわ。
めちゃくちゃに走って、走って、足が乱暴に向かったのは、あの日に置いてけぼりにされちゃった公園だった。
私はどきどきした胸をごしごしこすりながら、雪崩れるみたいにブランコに縋りついて、からっからに晴れた空を植木越しに眺めたわ。
薄いセロハンを一枚しいたっきりな褪色気味の青空は照美ちゃんのハスキーブルーの瞳によく似ていて、暫くじっと眺めていたら、ゆっくり飛んでいたウサギ型の雲がうやうや歪んで、ややしてから目じりにポロッと熱い感触があってまた鮮明なウサギ型に戻った。
でもすぐに雲の形が解らなくなる位視界はたわんでしまって、次第に何度も目じりが熱くなるのに空はきちんとした形を取ってくれなくなっちゃったわ。
喉の下の方が締め付けられるみたいに苦しくて、私、思わず声を上げてしまったの。
照美ちゃん、どこへ行ったの?って、迷子みたいに繰り返してたわ。
人気者だった室戸照美が死んでしまったという一大センセーショナルなニュースはすぐに学校中を満たして、私たち”ノース・アイスキャンディー・フットボールクラブ”を悲しさで包んだ。
それでも虚しいものね、2ヶ月もすればみんな照美ちゃんのロッカーに目をやることもなくなったし、半年が過ぎたころには全部忘れたみたいに笑い転げながらサッカーをしてたわ。
私は公園を避けるようになってしまったけれど、それだけだったし、あとは学校の勉強やクラブ活動やおしゃれに夢中になっていってしまったもの。
かくして、絶世の美少年「室戸照美」の死は、みんなの記憶の中に埋没していってしまったのよ。
それなのに私が急に彼のことを思い出して、その上、全国のサッカー部の中学生に重犯罪者と語り継がれるアフロディと結びつけたのは、昨日やっと撮り溜めたまま放置しっぱなしだったイナズマジャパンと韓国チームの試合を見たからかもしれないわ。
宿題をぶらぶらやりながら横目で見ていただけだったから、その時は何も思わなかったのだけれど。
さっき、流ちゃんがゴミをぽいっとやったのを見て思い出したの。
試合休憩中にアフロディが「投げておいて」って千切れたミサンガをサポーターに渡していたシーンが流れていたのよ。
それって、北海道の訛りだわ。「投げて」って、「捨てて」ってことだもの。
北海道以外ではこんな風に言うのかしら?少なくとも私は聞いたことがないわ。
だから私はじっと考えたの。アフロディの顔をよくよく思い浮かべて…吊り上った目の、隈取のハッキリした、ハスキー顔の男の子を…。
私は彼を知っている、もっとも、とても幼い頃…笑った時に、左の口の端だけ持ち上がる…。
どたん場で消えてしまった室戸照美と、アフロディのモンタージュ。
全てのパーツが重なり合って、レジスターが飛び出すみたいに私の記憶のクロゼットはすぐに開いたわ。
だから言ったの。「アフロディは室戸照美よ」って。