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16さいのこどもとかわいそうなぼく

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それは面白い。とシンドウスガタ。奴はいつものように唇に冷笑を乗せて僕に囁きかける。
「じゃあここにいる君は、一体誰なんだ」
「僕が僕以外の誰かに見える?」
「いいや?ツナシタクトくん」
「……そうさ」
たった一人の僕。僕以上でも以下でもなく僕は僕で。

「君が殺したきみは、一体どこにいるんだい?」
「海の藻屑さ」
「冷たいんだね」
「他人だからね」
「君だろう?」
「ぼくさ」
「なるほど」

解っているのかいないのか。意味深な笑み。ぼくと僕と同じ16歳のくせに、妙に老成してやがる。

「動機はなんだ?」
「そうしなきゃならなかったからさ」
「誰が決めた?」
「ぼく/僕が」
「どうしてそうしなきゃならなかったんだい」
「間違ったからさ」
「そうだね」

意味深な笑み。指先。白い頬。

「例えば僕とスガタがかけっこをするとする」
「いいね」
「スタートラインは一緒じゃなきゃならない」
「例えば僕とタクトが双六をするとする」
「しようよ」
「僕がゴールの直前から始めたら卑怯だ」
「そうだよ」
「つまり、君は始めるために終えたんだね」
「その過程でぼくはいなくなってしまった」
「だとするとだね」

スガタの表情が曇る。伏せた目。長い睫毛。陰影。

「僕もきみを殺した訳だ」
「思わぬ共犯」
「どうしたもんか」
「自主しなよ」
「島を出たら死んでしまうよ」
「君は弱い」
「そう。弱いかわいそうなぼく」
「捨ててしまえば?」
「ぼくは僕だからね」
「大変だね」
「君が普通じゃないだけさ」

笑み。

「お葬式はいつ」
「来てくれるの?」
「行こう」
「いつがいいだろう」
「ぼくが死んだら」
「いつだい?」
「そのうち」
「曖昧だ。かわいそうだよ」
「じゃあぼくを殺す?」
「死にたい?」
「……いいや」
多分ね。笑う。意味深。

「空と海。自然。見知った人々。鳥。学校。町。島一つ分のぼくの世界」
「うん」
「どうだい?」
「素敵だ」
「そうかな」
「ぼくが欲しかった全てさ」
「きみはぼくが欲しかった全てを持っていたろ?」
「少なくともぼくは欲しくなかったよ」
「ぼくは諦めた」
「うん」
「諦念と言う概念を知るよりも速く。ぼくは僕になってしまった」

憐憫にも似た感情が胸を占めた。スガタはまた笑った。鮮やかな虹彩、その瞳に映る僕。ぼくはもういない。小学生のぼくも。中学生のぼくも。いろんなぼくが溺れて死んだ。僕は海が怖い。

「僕たちは似ている」
「かけ離れてもいる」
「僕のぼくは無駄死にだものね」
「お葬式しよう」
「いつ?」
「ぼくが死んだら」
「殺したくせに」
「じゃあしようか」
「何を?」
「大人っぽいこと」
「大人なの?」
「こどもを殺して大人になった」
「何しよう」
「…祈って」
僕は笑う。スガタはちょっと驚いた顔をして、それからまた表情を崩した。僕を見つめていた瞳が目蓋にゆっくりと隠されて、鮮やかな虹彩と僕がいなくなる。触れてみたスガタの頬は想像したよりもずっと冷たくて氷のようだった。しんぞうはきっともっとずっと冷たいだろう。唇ももっと冷たいはずだ。王は冷たくなきゃいけない。冷淡と平等の同義。ライオンの勇敢と狐の狡猾。

「………何に?」

僕に。スガタは頷いた。でもきっと彼女のために祈るだろう。中心であるがゆえにずっと外にいる彼女のために。全身全霊を懸け、命を賭して祈るだろう。彼女もいつかだれかを殺すのかもしれない。巫女を殺してただの彼女になるのかもしれない。僕は目を閉じた。僕は身勝手にも僕のことを想った。