ひそやかにはじまる(前)
なんだろう。
朝からずっと、2つ隣のクラスが騒がしい気がする。
「ねえ、ルリ。今日さ、隣がすごく騒がしくない?」
昼休みに尋ねたワコへ、ルリは待ってましたとばかりに目を輝かせた。
「そう! そうなのよ! 2つ隣のクラスにね、転校生が来たのよ!」
「ええっ? 入学式の1ヶ月後に…?」
妙な話だ。
タクトのように無茶な方法を取るならば、ともかく。
思い出して少し笑ってしまったワコは、ルリの手作り弁当に目を輝かせるタクトを見遣る。
「タクト君みたいに、島の外の人なんだね。きっと」
「ん? 何が?」
まったく前後の話を聞いていなかったタクトは、そこでようやく相槌を打つ。
その様子に、今度はスガタが苦笑した。
「なっ、笑うこと無いだろ。スガタ」
「悪い悪い」
欠片もそんなことは思ってなさそうに返して、スガタはおや? と廊下を振り返った。
騒がしさ(正確には黄色い声の方が多いか)が、近づいてくる。
「なんだろ?」
ルリとワコ、そしてタクトも視線を教室の外へ向けた。
このクラスの周辺が騒がしいのはいつものことだが、何事だろうか。
開け放たれている教室の扉の向こうで、誰かが呼んだ。
「あっ、居た! タクト!」
彼らが話題の中心を目にするのと、ガタン、という音を聞いたのは同時だった。
驚きに立ち上がったタクトは、驚いた面々を気にすること無く駆け出す。
彼を呼んだのは、2人の黒髪の少年。
良く似た顔立ちで、彼らが双子であろうことは誰にでも察せられた。
「シン! 刹那!」
記憶より、彼らの姿はだいぶ大人びている。
けれどあの頃のように上げられた右手に、タクトはパシンと自分の右手を合わせたのだ。
…いつからか、挨拶代わりになっていたハイタッチ。
懐かしむよりも前に、嬉しさが込み上げる。
「久しぶり…っ!」
まさか、彼らに出会えるなんて。
作品名:ひそやかにはじまる(前) 作家名:ひかいきゆき