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ひかいきゆき
ひかいきゆき
novelistID. 21770
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ひそやかにはじまる(後)

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「手続きが遅れて、今日入ってきたんだ。オレはシン・アスカ。
で、こっちが…」

彼は隣へ視線を向け、その相手が口を開く。
「刹那・F・セイエイ。名前は違うが、シンとは双子だ」
予想に違わず、彼らは双子だった。
刹那と名乗った少年の方は肌が浅黒く、中東のイメージを思わせる。
髪は黒いがややくるくるとしていて、癖が強いらしい。
表情も口調も淡々としており、眼の色は赤褐色だ。
「双子は珍しいね。私も3年前に本土から渡ってきたけど、双子に会ったのは初めてだな」
「そうなのか」
「ええ。ところで手続きが遅れたって言ってたけど、どういう意味?」
素朴な疑問を投げてみれば、とうに事情を聞いていたのだろうスガタが答えてくれた。
「海外に住んでいて、日本の入学と手続きの時期を失念していたらしい」
なるほど。
スガタはサリナからタクトへ視線を移した。
「タクトと部長以外は僕も含めて、みんな島の出身だからね。
そういった話自体が新鮮だよ」
確かに、タクトは入学当初から、言い方は悪いが異分子扱いだった。
ワコが興味津々といった様子でタクトへ問い掛ける。
「ねえ、タクト君。シン君と刹那君と、知り合いなんだよね?」
ほう、とサリナは目を瞬く。
「そうなのか?」
タクトは頷いた。
「3、4年前、だったかな。家が隣同士で」
「もうそんな前だっけ。いっつも3人で遊んでたな」
当時を思い出して笑みを浮かべるシンに、過去形の意味を尋ねた。
「遊んでた、ってことは、引っ越したとか?」
「ああ。両親が海外勤務で、基本的に定住が出来ない。
日本に居たのは1年と少しだったから、あれは長い方だったが」
返答は刹那からだった。
サリナは彼の言葉を聞いたタクトが、少し寂しげな表情に変わったことに気づく。
(…別れるとき、本当に寂しかったんだろう)
明るくて、朗らかで、見て話したこちらが元気を貰ってしまう。
そんなタクトにも、暗い影はある。
タクトだけではない。
誰にだって。
「…では、今日の部活は臨時休業にしようか」
「えっ?」
タクト、ワコ、スガタが首を傾げ、シンと刹那は不思議そうにサリナを見上げる。
彼らの様子に軽く首を傾げ、笑った。
…年長者としての気配りこそ、もっとも求められるもの。

「タクト君は、旧友との久々の再会だ。積もる話もあるだろう。
そしてシン君と刹那君は、今日入学してきたばかりだ。
旧知の者に学園を案内してもらう方が、ずっと良いだろう?」

それもそうだ、と他の面々も頷いた。
「2人も寮生だったな。それなら僕やワコより、タクトの方が良い」
「だよね。私たち、先に帰ろっか」
タクトがシンと刹那を振り返れば、彼らもサリナの提案に賛成した。
「すまない」
「ありがとう!」
彼らの返答に満足して、部外者はさっさと退散だ。
「明日は部の活動日だ。サボるんじゃないぞ」
「じゃあタクト君、お先に! また明日!」
「また明日」
手を振った友人たちに、タクトも手を振り返した。

「また明日!」