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パーフェクト・ヒール

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 周りでチームメイトがざわついている中、真っ先に思い浮かぶのは、1人崩れることのなかった鬼道の姿だった。
 マークとディランが、動かなくなった自分に声を掛けてくる。でも、今はそれどころじゃない。
 テレビの画面も、周りの声も遠くなって、何故かイナズマキャラバンで生活していた時のことが浮かび上がってくる。
 鬼道は、崩れなかった。円堂も風丸も、吹雪も豪炎寺もいない中で、背筋をぴんと張って立ち続けていたことを思い出す。
 ――――今。
 鬼道も、このニュースを見ているのだろうか?
 それとも、もっと早い時間にこの事実を知ったのだろうか?
(鬼道――――っ)
 名前を叫びたい衝動を何とか押さえ込んで、きつく目を閉じる。
 記憶の中の鬼道はいつも、しゃんと姿勢を正していて、いつだって自分の力で立っていた。
 そして、誰よりも優しくて、潔い。
 人の甘えは許すくせに、自分にはそれを許さないような、そんな人間だ。
(鬼道、)
 鬼道。
 きどう。
 ――――きどう……。
 心の中で、何回も何十回も名前を呼ぶ。
 言わなきゃ伝わらないことを分かっていて、自分たちはいつも言葉で伝えることをしてこなかった。
 頼るばかりで、感謝こそ口にしても、あのひとに大切なことを言わないまま――――ずっと、ここまで来てしまった。
 
 情けなさと、悔しさと、どうしようもない怒りを持て余して。
 『何でいなくなったんだっ!』と、八つ当たりをして――――。
 そんな、あれほど憎んだ大人に、縋りつくように願ってしまう。
(――――――頼む、から……っ!)
 
 どうか、帰って来てくれ――――と。

 《終わり》
まだ幕は下りていないんだ
作品名:パーフェクト・ヒール 作家名:川谷圭