向いてない男 上
「仙蔵と同じ学年だっていうのが、僕の一番の不運かもしれない……」
実習開始前、指定場所へ移動しながらぼそっとつぶやいた善法寺伊作に、同級生の食満留三郎は目元にだけ苦笑を浮かべた。
本日、忍術学園六年の生徒たちの合同実技演習は、裏々山における”組別対抗 札取り合戦”である。
ルールはいたって単純、各組に一枚ずつ木札が配られ、それを奪い合うのである。範囲は、裏々山のみ。時限は終業の鐘まで。武器使用も可。ただし、銃火器や毒物等殺傷能力の高いものは代替品を使用する。
各組の実技担当が審判を行い、攻撃等で死傷したと認定されたものはその場で失格。もし、失格者が木札を所持していた場合は、攻撃を行った者へ木札を渡さなくてはならない。
終了時点で最も多く木札を所持していた組を勝者とする。
たったこれだけだ。
単純であるがゆえに、いくらでもやりようのある競技である。各組ともその特色を活かし、虚虚実実の駆け引きを行うことになる。実技演習とはいえ、その面白さから生徒の中でも人気の高い競技であった。
また、教師側からしても、野戦のために必要な実技の総合力を問うことができる。
このようなことから、上級生になると、比較的よく行われる実技演習であった。
伊作は比較的、この手の競技系実習が得意だ。
というより、他が悪いのである。
町へ探索に行けば、弱った老人を看病して時間を潰し、戦場に索敵に出れば、負傷兵を治療して帰陣できない伊作である。
まともに得点が取れる実習は、他にない。
だから、こうして学園内だけで行われる競技系の実習で得点を稼ごうと、張り切るのである。もともと、戦術等の学科成績は良い方でもあるし、また思考力も柔軟なほうだ。武術の成績も及第点ではあるし、駆け引きの勘も悪くない。結果はおのずとついてくる。
しかし、それも首席が取れるほどではない。良くて次席だ。
この競技系の実習の首席は、だいたい決まっている。
い組の立花仙蔵だ。
武術の成績は武闘派の後塵を拝するものの、学科成績は抜群、加えて頭の回転も速く、冷静で、その上、場合によっては大博打を打つ度胸もあり、知略を競うことにかけては並ぶ者がいない。こうした競技になると参加者を手玉に取り、颯爽と首位の座を持っていくのが常だ。
伊作も、まぐれで仙蔵を退けたことが二度あるだけだ。いいところまで迫ったこともあるが、大体は敗北を喫している。
それについて、伊作はこれといって思うところはない。
生来、闘争心が薄い性質だから、何が何でも首位になりたいなど、ちらりとも考えない。ただ、何位に終わろうと、落第しないだけの成績が収められれば御の字だ。
しかし、大変困ったことに、仙蔵のほうはそれで済ませてくれなかったのである。
伊作は、不満たっぷりにうなる。
「なんで僕を狙いたがるんだ、仙蔵はっ!!」