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向いてない男 中

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 一方、仙蔵は取り出しかけた焙烙火矢を懐へ突っ込む。
 留三郎と小平太という学園でも指折りの武闘家二人が来るのだ。この状況で爆薬など使えば、自らも巻き込まれることは必至。
 さらに、爆薬を使わないのなら、このような岩陰にいればかえって追い詰められる。
 活路を求め、岩陰を飛び出ると、身を低くして前へ出た。
 身を屈めた仙蔵の頭上を小平太が飛び蹴りの形で飛び越えていく。
 次に迫ってきた留三郎の鉄双節棍を、身を開いてかわす。さらに、食いついてくるかと思われた留三郎だが、はっ、として振り返ると、仙蔵へ向けていた棍を背後へと向けた。
 がんっ、と鈍い音を立てて、飛来した苦無が叩き落される。文次郎の投じたものだ。
 背中に目を持っているのではないかとさえ思われる、留三郎の反応力だが、そこには救いようの無い隙が生まれていた。
 ほんの一瞬、無防備な背を見せた留三郎に、仙蔵はとっさに両手に流星錘の縄を巻きつけると、その首へ掛け、両手を交差させて力の限りに締め上げる。
 留三郎は声を上げることもできず、のけぞると、首をかきむしる。

「は組、食満留三郎、死亡とみなし、失格!」

 どこからともなく響く教員の声が、冷厳と言い渡す。
 その宣告に、仙蔵はやっと力を緩めた。
 短い時間ではあったが、絞殺されかけた留三郎は、膝から崩れ落ちると、壊れかけのからくり人形のように激しく咳き込みながら、空気をむさぼった。

「聞いたろう、札を渡せ」

 冷淡に、傲慢に、要求する仙蔵を見上げた留三郎は、目を細めた。
 その表情は敗者が浮かべるものにしては、妙に清々しげで、微笑にさえ見える。

「持ってねぇよ、そんな物」
「何、では……」

 仙蔵が言いかけたとき、切り通しの空気が白く霞んだ。

「悪いな」

 留三郎が、両目を抑えきれない興奮に輝かせる。
 霞の原因を探して、仙蔵は周囲を見回す。留三郎以外の三人も同様だ。
 その四対の目に、その光景はすぐに飛び込んできた。

「伊作……!!」

 そう声を上げたのは誰であったろうか。
 伊作は、まるで能の舞手のように一面の扇子を広げ持ち、切り通しの入り口近くの小高い岩の上に立っていた。いつの間にか、顔の下半分を布で覆っている。
 霞の元は、その手の扇子であった。それが揺れるたびに、まだ残る粉末が振りまかれ、その周辺に濃い霞を纏わせている。
 霞扇の術、という名前で忍者たちに知られている、毒薬散布のための技である。
 再び、教員の声が響き渡る。

「その粉末は“座枯らしの薬”として、事前に申請されている」

 座枯らしの薬は、猛毒だ。少量でも吸引してしまえば、人は死ぬ。
 今回は、そう仮定された無毒な粉末ではあるが。

「い組、潮江文次郎、立花仙蔵、死亡とみなし、失格!」
「ろ組、中在家長次、七松小平太、同じく失格!」
「善法寺伊作以外、全員失格のため、今回の実習は、は組の一人勝ちとし、終了する。以上だ」

 教師の声が止んだ、その瞬間、留三郎が歓声を爆発させた。弾かれたように立ち上がって、伊作の元へ駆けていく。
 い組、ろ組の四人は、それぞれに別の感情を表に浮かべて、立ち尽くしていた。
 そして、伊作は。
 今回の作戦立案者であり、最終実行者でもあった彼は、疲れきった顔で岩の上に座り込んでいたが、留三郎に抱きつかれて、少しだけ笑った。
 けれど、それでもその目に浮かんだ光は、長い間、沈鬱であり続けた。
作品名:向いてない男 中 作家名:花流