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願い事を叶えてあげる。

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僕は何時だっていざにいの背中を追いかけていた。
大好きないざにいの背中。
幼稚園の時も、小学生の時も、中学生になってからも、ずっと追いかけていた。
いざにいは僕の憧れだったから、全てだったから、世界だったから。
でも、僕は次第に「抱いちゃいけない気持ち」を抱いてしまうようになっていた。


それは甘いようでほろ苦くて、心がぎゅっとするもので。
本当はいざにいには抱いちゃいけない気持ちで。

だけど、僕はどうしても いざにいが     。








週末の昼下がり。
今日も外では雪がしんしん降っていて、世界を白く染めていた。


「……今日も、寒そうだな」


夏に入院して以来、外にはずっと出ていない。
その間にも季節は変わっていき、あっという間に冬も半ばだ。
同級生達は今頃、どうしているんだろうか。


(まぁ僕には…関係ないけど)


そんな現実を隠すように、雪は降り続く。
こんな景色を見れるのもあと何回だろう。
あと、僕は――




     「こんにちは、帝人君」




そんなぐだぐだとした考え事をする僕の耳に、扉ががらりと開く音と青空みたいな声が届いた。
その声にどくんと胸が高鳴って、頬が熱くなる。
視線を声の方に向ければ、そこにいたのは大好きな漆黒と真紅。
大好きな、大好きな。


「帝人君、久しぶり」
「いざ、にい……来てくれたんだ」


コートについた雪を払いながら、いざにいはそこに立っていた。
僕が起き上がって迎えようとすると、いざにいは「寝たままでいいよ」と言ってくれる。
もう僕が起き上がっているのも辛いことを知っているからだ。
お言葉に甘えて僕は横になったままいざにいの姿を見つめる。
何処となく疲れたように見えるけど、綺麗な顔に浮かべるのは何時もの優しい笑顔だった。


「お土産だよ、これなら帝人君も食べられるでしょ」


そう言っていざにいは手に持っていたケーキ屋さんの箱を小さく揺らす。
僕が大好きなケーキ屋さんのロゴが印刷された箱、恐らく中身はプリンだろう。
この間美味しいって言ったの覚えていてくれたんだ。
そう思うだけで嬉しくなって、僕は思わず笑ってしまう。
するといざにいも笑ってくれて、僕の頭をよしよしと撫でてくれた。


ベッドの傍らの椅子に座って、いざにいは箱の封を開ける。
そこからプリンを一つと、スプーンを一緒に取り出した。
どうするのかなと思ったら、いざにいはプリンの器の蓋を開けてスプーンで一口分掬って、


「はい、帝人君。あーん、」


何の躊躇いも恥じらいもなく、それを寝たままの僕の口元に差し出した。
幾らなんでも、流石に中学生にもなって「あーん」は恥ずかしい。
今まではこんなことしなかったのに、なんて思いつつも、いざにいの優しい笑顔に何も言えない。
結局僕は観念して、口を小さく開いてプリンを迎え入れた。
口の中に入ってくるプリンは、酷く甘くて、優しい味。
「美味しい?」って聞いてくるいざにいにこくんと頷くと、いざにいは笑みを深くしてまたスプーンでプリンを掬って僕に差し出す。
まるで餌付けみたい、とか、恥ずかしい、とか思うけど。
でもいいんだ、どうせ僕たち以外誰もいないし。


いざにいの傍にいられるのも、いざにいに甘えられるのも、あとどれだけか分からないし。




「っ……どうしたの、帝人君?」


いざにいの珍しく戸惑った声。
その声の後、プリンとスプーンを棚に置いて、いざにいは僕の頬をその綺麗な手で撫でた。
いざにいに触れられたことで、漸く僕は自分が泣いていることに気づく。
あれ、何で泣いてるんだろう。
考えても涙は止まらなくて、ぼろぼろ零れてはいざにいの指を、シーツを濡らしていった。


ぐるぐる、ぐるぐる、頭の中で考える。
僕は。ぼくは?




(あとどれだけか、わからない)