混ぜ込ぜになったわたし
僕cと、…。
僕という存在は、複数で同じ場所には存在出来はしない。僕らは砂漠の蜃気楼のように、互いに触れ合わない。もし触れてしまったのなら、どちらかが消えて吸収されてしまうことをわかっているから。それは事項に優先順位がつくということであるから。同時に別々のことを思考出来ないという表れかもしれない。
興味のあることが増える程それに合わせて増えるも、少しばかり何処で生活するのかを毎回困っていて、一人はアパートに、一人は正臣を頼り、一人は他の縁を辿り転々と泊まる。
意識は朧気ながらも共有している。生活費諸々は最も神経を尖らせている、創始者としての僕が得てくれているのは把握しているのでその点は心配していない。
安定した不安定な揺れでありながらも滑りゆく電車の車体は夜に溶け、明りが漏れた窓は連なる画廊にて均一化した作品のよう。そこに華々しさも深みもない。見る者の脳裏には既視感や倦怠感といった、食傷気味かつありふれたものが通るのだろう。
色付いた街灯の灯りに染められた歩道が暗い中に薄く浮かぶ夜の真ん中な時刻になっても、平凡な日常を愛する僕や類い稀なる非日常に惹かれる僕とは違う、どうにも何の為に分裂したのか分からないままの僕は街を彷徨い続けている。
1日を何に費やしているのだろうか。分裂したてであるからか、当たり前過ぎて無意識に組み込まれているのかさっぱり当てがない。目的もなく歩くことは案外疲れる。そもそも存在意義を見つけられないなど、この僕は居る意味があるのだろうか。もう諦めてどちらかに吸収されてしまった方が楽になれる。
そう思い、来た路を戻ろうとした。と、腕が突然強い力に掴まれる。街頭があまり届かない裏に引きずりこまれていたのだと気付いた時にはまずい状況で、震える手で取り出した携帯をとっくに性質の悪い笑みを張り付けた者の足の下にあった。
助けを呼ぼうとしたその瞬間、固いコンクリートに頭部を押し付けられる。痛みに滲んだ涙で眼が曇る。弱々しい抵抗も、鳩尾に入った拳で更に力のこもらないものになり下がる。冷や汗が、鼓動が、痛みが、恐怖が支配する思考に完全に狩られる対象となった僕に脅し文句を囁こうとした者の首筋に光るものが一つ。そこらへんにしといたら、という涼やかな聞き覚えのある声音。
偽でない刃物の冷たさに降参したのか去る影を見送りながら、助けてくれた当人に駄目じゃないこんな時間に、とお説教を頂戴する。
「はい、すみません。臨也さん、どうも本当に危ない処をありがとうございました」
「別に恩にきることでもないよ。それに君がどうにかなってしまったら、聞きたいことも聞けないしね」
聞きたいこと。それは多分最近のことだろう。臨也さんともあろうひとが、集めた情報を分析しきれないことでもあるのか。種は単純そのもの、事象そのままであるのだが。
心当たりのある気配を感じ取ったのか、俺も万能じゃないからねと肩を竦められる。年上でそのような職を営んでいる時点で、うっかり偶像が出来てしまっていたようだ。はあ、そうですねと相槌を打つ。
それに、わかってしまったことがある。それを自覚した今では平常を保って対話するのも一苦労であるから、何でしょうかと此方から話を進める。
「からくりがあるにしても一般から外れているのは分かるから。一応答え合わせをしておこうかなと思ってさ」
「質問に答えてもらえるのなら。日頃お世話になっていることは重々承知していますが、こればっかりは交換条件でお願いします」
先ほどまでならなんともない会話であるのに。興味を向けられた対象は僕なので、どうしても。ここが明かるくない場所でよかったと思う。自覚する前後では心構えに大変な差異があったが、声を平常通りになんとか調整する。
「まあ恩にきせないって言ってしまったことだし。ギブアンドテイクだね、心得てるよ。言ってごらん」
気苦労をまったく知りようのない楽しそうな調子での快諾を貰う。
「臨也さん。あなたは平凡に浸る高校生としての僕、ダラーズに傾倒して関わる僕、ただの僕、どれに興味を抱いていますか?」
「うーんそうきたか…ごめんね、この件は保留かな。まだ俺自身で結論が出てないから」
此方こそ、そうきてしまったのかと内心頭を抱えているのだが。さてはて、僕は一体どうしたらいいのだろうか。僕は、あなたのことだけを思考する僕の部分なんですよ臨也さん。
きっかけであるダラーズ関連を担当している、いわば少しでも可能性が望めるであろう僕に吸収してもらうつもりだったのに、それは見事な宙ぶらりん。
恋する少年が、全部余さずすきだと自覚した恋しいひとに告白されるまであと、ほんの僅か。
そののちすぐさま返答が出来ない、お伽話の最後に王子様のする強引にラストを迎えさせるキスをされるまで、あと、…。
僕という存在は、複数で同じ場所には存在出来はしない。僕らは砂漠の蜃気楼のように、互いに触れ合わない。もし触れてしまったのなら、どちらかが消えて吸収されてしまうことをわかっているから。それは事項に優先順位がつくということであるから。同時に別々のことを思考出来ないという表れかもしれない。
興味のあることが増える程それに合わせて増えるも、少しばかり何処で生活するのかを毎回困っていて、一人はアパートに、一人は正臣を頼り、一人は他の縁を辿り転々と泊まる。
意識は朧気ながらも共有している。生活費諸々は最も神経を尖らせている、創始者としての僕が得てくれているのは把握しているのでその点は心配していない。
安定した不安定な揺れでありながらも滑りゆく電車の車体は夜に溶け、明りが漏れた窓は連なる画廊にて均一化した作品のよう。そこに華々しさも深みもない。見る者の脳裏には既視感や倦怠感といった、食傷気味かつありふれたものが通るのだろう。
色付いた街灯の灯りに染められた歩道が暗い中に薄く浮かぶ夜の真ん中な時刻になっても、平凡な日常を愛する僕や類い稀なる非日常に惹かれる僕とは違う、どうにも何の為に分裂したのか分からないままの僕は街を彷徨い続けている。
1日を何に費やしているのだろうか。分裂したてであるからか、当たり前過ぎて無意識に組み込まれているのかさっぱり当てがない。目的もなく歩くことは案外疲れる。そもそも存在意義を見つけられないなど、この僕は居る意味があるのだろうか。もう諦めてどちらかに吸収されてしまった方が楽になれる。
そう思い、来た路を戻ろうとした。と、腕が突然強い力に掴まれる。街頭があまり届かない裏に引きずりこまれていたのだと気付いた時にはまずい状況で、震える手で取り出した携帯をとっくに性質の悪い笑みを張り付けた者の足の下にあった。
助けを呼ぼうとしたその瞬間、固いコンクリートに頭部を押し付けられる。痛みに滲んだ涙で眼が曇る。弱々しい抵抗も、鳩尾に入った拳で更に力のこもらないものになり下がる。冷や汗が、鼓動が、痛みが、恐怖が支配する思考に完全に狩られる対象となった僕に脅し文句を囁こうとした者の首筋に光るものが一つ。そこらへんにしといたら、という涼やかな聞き覚えのある声音。
偽でない刃物の冷たさに降参したのか去る影を見送りながら、助けてくれた当人に駄目じゃないこんな時間に、とお説教を頂戴する。
「はい、すみません。臨也さん、どうも本当に危ない処をありがとうございました」
「別に恩にきることでもないよ。それに君がどうにかなってしまったら、聞きたいことも聞けないしね」
聞きたいこと。それは多分最近のことだろう。臨也さんともあろうひとが、集めた情報を分析しきれないことでもあるのか。種は単純そのもの、事象そのままであるのだが。
心当たりのある気配を感じ取ったのか、俺も万能じゃないからねと肩を竦められる。年上でそのような職を営んでいる時点で、うっかり偶像が出来てしまっていたようだ。はあ、そうですねと相槌を打つ。
それに、わかってしまったことがある。それを自覚した今では平常を保って対話するのも一苦労であるから、何でしょうかと此方から話を進める。
「からくりがあるにしても一般から外れているのは分かるから。一応答え合わせをしておこうかなと思ってさ」
「質問に答えてもらえるのなら。日頃お世話になっていることは重々承知していますが、こればっかりは交換条件でお願いします」
先ほどまでならなんともない会話であるのに。興味を向けられた対象は僕なので、どうしても。ここが明かるくない場所でよかったと思う。自覚する前後では心構えに大変な差異があったが、声を平常通りになんとか調整する。
「まあ恩にきせないって言ってしまったことだし。ギブアンドテイクだね、心得てるよ。言ってごらん」
気苦労をまったく知りようのない楽しそうな調子での快諾を貰う。
「臨也さん。あなたは平凡に浸る高校生としての僕、ダラーズに傾倒して関わる僕、ただの僕、どれに興味を抱いていますか?」
「うーんそうきたか…ごめんね、この件は保留かな。まだ俺自身で結論が出てないから」
此方こそ、そうきてしまったのかと内心頭を抱えているのだが。さてはて、僕は一体どうしたらいいのだろうか。僕は、あなたのことだけを思考する僕の部分なんですよ臨也さん。
きっかけであるダラーズ関連を担当している、いわば少しでも可能性が望めるであろう僕に吸収してもらうつもりだったのに、それは見事な宙ぶらりん。
恋する少年が、全部余さずすきだと自覚した恋しいひとに告白されるまであと、ほんの僅か。
そののちすぐさま返答が出来ない、お伽話の最後に王子様のする強引にラストを迎えさせるキスをされるまで、あと、…。
作品名:混ぜ込ぜになったわたし 作家名:じゃく