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【こたつる】儚くも虚ろわざる想いあれ【連載中】

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【2/3】


真っ暗で、淋しくて、冷たくて。それでも、ここに居たかったのです…。
ずっと、ずっと、一緒に…。


ハッと、薄い掛け布団から飛び起きた風魔は、想像以上に殺気だっている己に気付き、すう、と其の気配を消した。
細い糸を手繰る様に周囲を伺うも、どうやら誰かに見張られてる気配もない。

またか、と微かに汗の滲む額を掌に抱えて重い息を吐いた。
数年ほど前から、度々見る夢を見たらしい。

夢幻の中、いつもいつも、己は光の向こうに其の声を聞くばかりで何も見る事が叶わない。
誰の声なのか、何の事を言っているのか分からない。
最後は誰かの泣き声らしきものを聞きながら、己は光に消されてゆくのだ。

気分を紛らわす様に軽く頭を振ると其の赤みがかった色が黒く染まって行った。
風魔は忍びとしては仕事以外で振る舞う事もなく、普段は農民として過ごしていた。
此の姿は、その為のものであり、まことの姿は長年人目に晒して居ない。

昔から此の暮らし方は何も変わっていない。
物は必ず一人で食べた。真の姿と名は捨て、諜報にさえ利用しなかった。

しかし、変わった事もある。

誰よりも速く駆け、誰にも触れさせぬ程に業を磨いた。
今では、一度見た業なら全て使える様にさえなったほどだ。
また、数年前から住んでいた住処を出て、今では新しい里に根を下ろしている。

「おお旦那、おはようさん」

顔を洗おうと井戸へ行けば、同じ様に田へ向かうのであろう馴染みの村人達が声をかけてきた。
風魔は其れにコクリと頷き、二、三言ほど言葉を交わして其の場を別れた。

「そいやあ、今日は庚申じゃが、あんさんはどうすっかいね?」

思い出した様に振り向いた男に、風魔は眉を下げながら首を振った。
返事を分かっていたのだろう、やはり、と苦笑した彼はそのまま手を振ると先に田へ向かって行った。

庚申の日。

村人が月に一度集まる宴会のような場であるが、風魔にとって其の日は別の意味があった。

長年の雇われの傭兵生活を終え、正式に襲名を受けた彼は、今は北条に仕えている。
その北条に任務の依頼を受け取るのが、此の庚申の夜であるのだ。

其れは、一介の農民が此の世から居なくなる日でもある。



「実は心という物が私には不可思議でならなくてね」

北条よりの指示は、常と変わらず諜報任務をいくつか請け負っただけであった。
近頃、地方で小競り合いが続いているゆえ、大きな戦が始まると見越しているのだろう。
一進一退の闘争では無く、一粒でも多くの情報を得ようとする所は、不安定な状況下で賢い選択であろう。

しかし、もう一つの依頼が厄介ではあった。

北条に仕える家系だからといって、忍びの本幹が無くなる訳ではない。
仕える北条に害が無いのであれば、傭兵としての仕事も行い続けてはいる。
今回請け負ったのは、とある一武将からの依頼であった。

「貴殿の様に、まるで多元自在に動くカラクリの如き者も興味深いが、意思がないというのは他に其の拠り所を得る薄弱者と同じ。まるで閑古鳥と同じではないか」
「………」

何やら、己の次元に昇華して風魔に言を与えているらしき彼は、返答を元より期待していないようだ。
風魔にしても、任務と関わらぬ言の葉を噛み砕く気もない。

「甲斐には心を持つと云う面白い忍びがいるそうだ」
「……」
「忍びの道に外れた、実に愉快な者ではないか?」
「……」
「貴殿には、其の忍びと少々、手合わせをして欲しい」

散々、御託を並べた結果はたった其れだけの任務らしい。
ならば、と立ち上がり其の身を消して立ち去らせようとした所、男はまだだと呼びとめた。

「卿に勘違いして貰っては困る。下手に彼を殺されたら適わない」
「…?」
「詰まる所だな、…」


ただ戦え、だと。

虚ろに光る瞳で、目の前の闇を凪ぎつつ、翻った其の足で枝に居た忍びに苦無を放った。
声を上げずに崩れた事を目の端に見届け、近付く気配に背を向け退散した。

「伝説と呼ばれる卿の技量に大層、期待しておるよ」

芒と浮かぶ彼の言葉に、さて如何にすべきかと幾許かの手段を頭に浮かべてみる。
大金を積んでまで己に求めたのは、其の心ある忍びとやらの戦い方という処か。

風魔は其れを厭う事も無く、ただただすべき事だけを考えた。
自分が依頼人の事をどう評価した所で栓無き事であり、そのような無駄は元より草に要らない。
ならば、どのようにすれば最短最良の動きと働きが出来るのか、其れだけを優先すべきである。

半ば予想はしていたが、否、予想以上に其の忍びは腕が立つようだった。
忍びであるにも関らず、何故か情報が大量に入り、人相や名前まで知れているのは驚いた。
聞けば、草をやけに重宝すると云う真田において大層に其の地位も確立されている様だった。

「そういや、お前さんに似ているかもな。…いや、お前もしかして前に会ってるんじゃないのか? 姿の消し方だって、誰かのを横取りしたんだろ?」

北条に仕える、やたら己に構う忍びは襲名後にも未だ健在であった。
しかし、前と何処か変わった事を感じ取っているのか、おそらく出来事を知って心配しているのか。
風車の歯車の様に動くだけとなった風魔に、相変わらずに声を掛けてきていた。

「……」
「なんだ、その面は。お前さんの独自の業なんて、俺は今まで一度も見た事ねえがな」

事実、彼の言う事は正しかった。
模倣という手段に長け、いつしか其の業の保持者よりも使いこなせるようになってしまうのだ。
おかげで、己で何かを生み出すなど考えも及ばず、其れが得意な目の前の男には何度も敗れている。

「まあ、いいだろ。しかしまあ、気を付ける事だ。あの地は忍びがわんさかいて動きにくい。蟻すらも逃げれぬ程に囲まれてた、なんて事になる前に帰るんだな」
「……」

その言葉が言い終わるか否かの内に風魔は姿を消し、残った男はせっかちな奴めと苦笑していた。