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【こたつる】儚くも虚ろわざる想いあれ【連載中】

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【1/30】


ぱしゃん、と水面を跳ねる雫を眺めているうちに、きらきらと光る魚が飛び上がるのが見えた。
長年に渡って姿を見せる事から、この湖の主ではないかと言われている魚だ。

手を浸けて、誘う様に揺らめかせれば甘える様に手の周りを回ってから去って行った。

「どうしてもやもやするんでしょうか…お蛇様にもお祈り申し上げたのに…」

時折、ほんの時折ではあるが、酷く気持ちが落ち着かなくなる事があった。
それは夕暮れ時に多く、紅く沈む陽の光であったり、山に帰る烏の群れであったりした。
何という事もない其れらを見ていると、無性に淋しくなったり、叫びたい程に泣きたくなるのだ。

今のところ特に勤めの障りにはなってはいない。
しかし、本来、静かな気を持つべき自分はやはり此のままではいけないのだろう。

そう思ったからこそ、無理を言って甲斐まで行って、お蛇様と崇められる滝まで足を運んだ。
落ち着いた気が支配する彼の土地は、民の顔も穏やかで居心地が良い。

誰かが重荷に腰を折れば、すぐさま誰かが傍によって其れを担いでくれる。
道が分からず歩みを止めれば、どうかしたかと小さな童ですら声をかけてくれた。
森に入ってからは、自然と風の気配が己を守ってくれてくすぐったい気分にすらなった程。

まさか加護の中で、闇の気配を持つ者に声を掛けられるとは思いもしなかったが、彼女を見れば其の訳も知れた。
見目もそうだが、内もとても美しく、磨かれた光と闇が同時に存在する稀有な女性であったのだ。
彼女の闇は不安を与えず、あたたかくて包まれる様な柔らかさを持っていた。

不思議と、いつしか覚えのある様な懐かしい気配がしたが、滝に着いても思い出す事は叶わなかった。

しかし、それも彼女に礼を言った次の瞬間には忘れてしまった。

それ位に、言葉を失くす位に、思わず瞳が潤むほどに、其の滝に魅せられたのだ。

濃い翠の水流が美しく、何もかもを柔らかく包む日射しが迎えてくれ、一目で此の神は愛されていると分かった。
彼の土地に悪い気が寄らないのは、古き信仰に守られる神が居て、其の神が民を守るからなのだろう。

優しく足の痛みを和らいでくれる水面が、内から温めてくれる様な風が嬉しかった。
しかし、もっと彼等に良く仕えたいと願い、こうべを垂れる己にやはり与えられるのは慰めるように優しい気配ばかりで。

「どうして、お蛇様は私をお責めにならなかったのでしょう…」

叱られた訳で無いのは、帰り際に佐助という男性の名が分かった事で明らかである。
彼女自身も、どのように知ったのかは定かでないのだが、彼を見て佐助という名だと分かったのは確かなのだ。

これは神の加護に依る物で、先見と呼ぶと氏子様より伝えられてはいる。
加護が無くなると、このように何かを知ったり見たりする事が叶わなくなるという。

「此の感情は失くしてはならないと云うことでしょうか…」

うーん、と空を見上げて眉を寄せれば遠くから何やら姫様と呼ぶ声がした。

「姫様ー! 姫様、何処に居られる!」
「あっ、爺さま! こちらですよ!」

見れば、そろそろ夕餉も近いせいか、社の給仕を行っている爺が林間を必死に声を張り上げながら駆けている。
其の方へ手を振れば、彼が憤怒の形相で駆けてきた。

「姫様!? こんな所まで、お一人で出歩いて! また、宮司様にも叱られますぞ!」
「爺さまが来たではありませんか」
「………嘘おっしゃいますな。今、思い付きましたね」
「あ、あれー…えへへ、ばれちゃってましたか」
「えへ、じゃありません! お転婆もいい加減にお止しなさい!」
「す、すみません…」

しゅん、と地面に正座して項垂れる彼女に、爺は一つ溜め息を付くとゆっくりと彼女の脇を抱えて立ち上がらせた。怒っているのが怖いのか、おそるおそる目線を上げる所は仔犬のようにさえ見えてくる。此れにほだされるのだから彼女に甘くなるんだと理解してはいるが、何も自分に限った事では無いので諦めるしかない。

「もう、構いませんから。姫様がいないと私の寿命が縮んでしまう。今度は何処ぞへ行くとくらいは教えて下さいな」
「すみません…」

ちょっとだけ袖を持ちながら謝る仕草は昔から変わらない。
もういい、と合図の様に頭を撫でれば、次にはもう花開いた様な笑みを見せる。

全く……反省しているのやら、していないのやら。

「全く、急に消えるのは小さい頃から変わらない」
「私、昔もそんな事をしていたのですか?」
「おや、消える自覚はお有りとみえる」
「ちっ、違います! そのっ…もう、夕餉に行ってきます!」
「はいはい」

顔を真っ赤にしてバタバタと駆けていく様子を見ながら、爺は少し寂しそうに其の背を見つめた。

「姫様は、ずっとあのままで居なきゃあならんのかね…」

身を捧げて仕える事に疑問すら持たず、此の世に利用されている。
其れは、今までの巫女であっても同じことであり、彼女等の勤めであるからして当然である。

彼は彼女の様な少女を生涯に渡って何人も見てきた。
皆が皆、明るく、優しい、愚かな程に無知な子供ばかりであった。

彼女達には、二つの勤めがある。

一つは先見。

願わくば、彼女だけでも、二つ目の勤めを果たさないではいられぬものだろうか。