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【太妹】今、僕は幸せです

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「此処に来る人間達の願いだからですよ。村の掟で婚姻出来ない者、人を殺して逃げてきた者、自害しに来た者。理由は皆違うけど、要は今の地からいなくなりたいという事は同じ。だから、少し手伝ったんです」

そう言って、跳ねる様にこちらを振り向けば再びリン、という音が響いた。


「そうだったのか…」

「信じない方が良いですよ。妖は人を騙すのが理ですから」

「お前は嘘を言ったのか?」

「だから、そういうんじゃなくて…」

「なら、信じる」

「何で、そこまで…」

「お前は一度も嘘を付いていないからだ。否、嘘を付く事が出来ないんだろう?」

一瞬、飄々としていた顔に緊張が走ったのを見て、太子は其の推測に確信を持つ。
そう、彼は人間が消えたのは己のせいだと認めていたが、危害を加えたとも、殺したとも言っていない。
更に先程から一つ、気になっている事がある。

「妖は確かに嘘を吐くかもしれない。しかし、お前は違うようだ。それに妖に人間を何度も運ぶ力なぞ、あるだろうか」

「……」

「お前、……本当は此の地の地鎮神なのではないか?」

小さな身に、秀麗過ぎる容姿。人の油断を誘うものかと思っていたが、もしや生来の物であるなら納得がいく。

「神になる者は、叶わなかった己の願いを叶えてやるという。お前は、村から出られず死んだのではないか?」

「全く……皇子様は聡くて敵わない。本当、皮肉ですよね。傀儡のように他者の想いを叶えるばかりで」

「辛いだろうに…」

「神様は疲れませんよ」

おかしそうに、くすくすと笑う彼の姿が痛々しくて、知らず視界が歪んでいく。

神に祀られる者は、生前に深い心残りや恨みを残した者ばかりだ。
子宝に恵まれなかった者、金を得られなかった者、川辺で死んだ者、学問を収められなかった者。
その者らが悪霊になるのを恐れた者達により、彼等は神として祀られる。

彼は、きっと、此処に祀られるほどに村から出たい理由と想いがあって、そして叶わなかった。
悔しかったに違いない。哀しかったに違いない。
なのに死んでからも尚、此の地に縛られている。

「御柱まで立っている。何で其処まで…」

「…もう、昔の事ですから」

忘れたとさえ言えない彼を何とかしてやれないものだろうか。何とか、此の地から彼を…

「私と……共に来ないか?」

「ええ?」

「私は人だから、お前の様に真の言葉を話していると証明も出来ないが、しかし、」

「……可哀想と思うは、慈悲では無く自己満足ですよ」

「そうじゃない! でも、嫌なんだ。お前がずっと此処にいるのが。何か…何かしたいと、そう思うのもお前には侮辱になるのか?」

「…いいえ。想って貰えると云うのは一つの幸であり、其れをくれた貴方とは縁があったということでしょう」

「つまり?」

二、三歩土の上を跳ねる彼の足許は、微かに枯れ葉の擦れる音が響くばかり。
応えを待つ太子を余所に、口元を緩めた彼は溜め息混じりに呟いた。

「一緒に居れば、意外と面白いかもしれません、って事ですよ」

「…! ああ、ああ! お前を、お前の一生から暇をなくしてやるぞ!」

「本当、馬鹿な人だなあ」

全く、と眉尻を下げる彼だが、先程より心なし柔らかくなった気がする雰囲気が自分を受け入れてくれた様に思えて嬉しくなる。そのまま、手を伸ばして抱き上げたら何故かばたばたと暴れられ、もしや最近気になってる華麗臭が…と内心傷付いたが、どうやら別の意図だったらしい。

「あ、あんた僕をそのまま連れて行けると思ってるんですか?!」

「え、行けないの?」

「当たり前でしょう。御柱すべて切る気ですか? 僕に…名を下さい」

「名前?」

「それで…貴方が死ぬまで僕を従える事が、出来ますから」

「そんな事したくない…」

「それしか、外に出る方法がありません」

「でも、」

「其の気持ちは嬉しいですが、勘違いをしてはいけません。自由とは足枷が無い事じゃない。手放しの自由の方が、ずっと地獄なんです」

「…分かった。すまない」

「謝らないで下さい。僕は、貴方との縁が出来て嬉しい。それとも、もう諦めますか?」

「い、嫌だ!!」

その応えの速さに彼が喉を震わせ笑うとリン、という音が再び聞こえた。

それにしても、自分には名づけの才能など皆無である。
前に、生まれた子供に「ベジータ」と名付けようとして殺されかけたのは割と最近の話だったりする。

「そうだな…生前は何と?」

「妹子と、申しました」

「良い音だな。では、そう付けよう。妹子、共に来て貰えるか?」

「承知」


子供のなりが仰々しく深く頭を下げる様は、何とも居心地が悪く、太子は直ぐさま顔を上げる様に云う。
すると、彼は嗚呼と納得した様に頷いて、気まずそうに苦笑った。

「これは、村の子供に合わせていただけなんです」

そう言って徐に掌を空中で横に滑らせれば、瞬く間に青年の姿が現われる。
突然の事に、唖然と声が出なくなった太子に妹子はどうしたものかと頭を掻いた。

「困った…」

「すみません。こうなるとは予想に無くて…」

「そうじゃ、なくて…」

そう、別に急に容姿が変わった事は驚きはしたが、それに困り果てているのではないのだ。
確かに先程の童の姿でさえ、示現の申し子である様な可愛らしさではあったが、成長した若者姿の彼はむしろ端麗で。正直、

「なんか…綺麗過ぎて、目のやり場に困る…」

「は、え、ええと…その………」

慣れぬ言葉を聞いたせいか、熱の集まる頬に、どんな言葉を用意すべきか混乱は増すばかりで。
嘘ならば憎まれごとの一つでも言えようが、本心から言ってるのが分かるから尚更にタチが悪い。

しかし、久方に得る事の出来た温かい心根が、やはり嬉しいと思わざるを得ない。

「た…太子」

おかげで暫く忘れていた感情が、自然と使い損なっていた言の葉を引き出して来た。

本当は、まだ此の人を完璧には信用出来ていない。怖くて仕方が無い。
信用できたとして、いつか来る死という別れに耐えきれるかも分からない。

それでも、怖がって何もしないで何も得ないでいるよりも。暇を失くしてやると、そう言って笑った彼に付いて行きたくなったのだ。

幸せを作れる心を彼はくれるのだと、そう確信したのだ。

「何だ?」

だから、此の言の葉は。

「ありがとう、ございます」

貴方への合図になればいいと思う。





今、僕は幸せです、と。