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【東方】夢幻の境界【一章(Part4)】

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 レミリアはパチュリーの問いにどう答えたらいいのか分からないのか、手元や本棚を見たりと視線が定まっていない。もしかしたら自分がなぜ不安になっているか分からず、困惑しているのかもしれない。視線が定まらないのは明確な答えを見つけられないからなのだろう。
「ちょっと聞きたいことがあるのよ」
 レミリアがそう口にしたのは、パチュリーが冷め切った紅茶を飲もうとカップに手を伸ばそうとしたときだった。
「なによ改まって」
 カップへと伸ばした手を戻し、机に肘をついて組んだ手に顎を乗せながらそう言った。
 紅魔館の主に対してこんな態度が取れるのは、パチュリーがレミリアにとってただの友人ではなく、相談役のような立場にあるからだ。
 レミリアはたまに他人には言えないような悩みを抱えることがある。しかし、主人が従者たちに情けない姿を見せるわけにはいかずひとりで抱え込むことがあるので、時々パチュリーがそれを解消してやるのだ。
「ほら話してみなさい。いまさら隠し事なんてするような仲じゃないでしょ?」
 いまだに口ごもっている友人に対して、パチュリーは諭すように言ってやった。
 するとレミリアは観念したかのように大きく溜息をついた。
「はあ、それもそうね。単刀直入に聞くけど、最近なにか変わったことはなかった?」
 突拍子もない質問だったので面食らいながらも、口元に手を当てながら思案したが、特に思い当たる節はなかった。
「さぁ、特になにも無いわね。それにこういうことはレミィの方が敏感なんだから、レミィがわからないことは私にも分からないわ」
 そう言うと、レミリアはまた視線をパチュリーから外そうとして、だが、すぐにパチュリーの顔に視線を戻した。ひとりで考えてもどうにもならないと分かったのだろう。
「昨日の夕方から妙な胸騒ぎを感じているの」
「胸騒ぎ?」
「えぇ。私が起きたのがその時間帯だからそれ以前のことはわからないけど、その時からずっと感じているわ」
 吸血鬼でありながらこんな時間に起きてきたのはそれが原因らしい。
 レミリアは鼻から息を長く吐き、椅子の背もたれに身体を預けて腕を組んだ。容姿が幼いので、ともすれば子供が威張っているようにも見えてしまう。
「その胸騒ぎとやらの原因は……その様子だと見当すらつかないみたいね」
「こんなのは初めてよ。自分が何を感じているのかも分からないのに、近くで自分や他の誰かに関わるような異変が起きているかもしれない――とてもじゃないけど耐えられないわ」
 先ほどレミリアの表情を怯えているようだと思えたのはあながち間違いではなかったらしい。
 それにしても、ここまで落ち着きのないレミリアを見たのは初めてだ。
 今も組んだ腕を指で何度も叩いているし、眉間のしわは一向に消える気配がない。
 もしかしたら自分が考えているより事態は良くないのかもしれない。
「しかたないわね」
 気だるげに言いながら立ち上がり、パチュリーは頭をぽりぽりと掻いた。
 目の前で友人にこんな顔をされていたのではこちらまで落ち着かなくなるというものだ。
「とりあえず紅魔館の周辺を調べておくわ。だからもう少し紅魔館の主らしい顔をしなさい」
 パチュリーはきょとんとした顔のレミリアに溜息交じりの笑顔を見せながらそう言うと、小悪魔を呼びつけて必要な魔道書を持ってくるように指示した。
 誰だって、困っている友人を目の前にしたら手を差し伸べずにはいられないだろう。
「悪いわね」
「そう思うなら自分だけで解決してほしいものだわ」
「パチェはもう少し外に出たほうが良いと思うのだけれど」
 その言葉にはさすがのパチュリーも目を見開いた。
 この吸血鬼は助けを求めておきながら、友人の運動不足解消のためだと言うのか。
 レミリアはにやにやといやらしい笑みを浮かべながらパチュリーの顔を見ていた。
 まったく、この吸血鬼はあと何百年生きたらこの幼稚さが無くなるのだろうか。
 パチュリーはレミリアの冗談に乗ってやることにした。
「ならあなたも一緒に行く? いまは絶好の散歩日和よ?」
 今度はレミリアが言葉を失い、そして、次の瞬間にはどちらからともなく笑いあっていた。
 小悪魔の「パチュリー様」と呼ぶ声が聞こえたのはそんなときだった。
「準備も出来たし、行ってくるわ」
「ありがと」
 なにをいまさらという顔をして、パチュリーは小悪魔から魔道書を受け取って図書館を後にした。