翡の伝言
さすがにそれは嫌だったので、閃は正守の肩に顔を埋めるようにしながらも首を横に振る。
「悪かったな」
正守のつぶやきにもただ首を振ることで返す。どうしたら伝えられるだろう。こうやって二人でいられることがどれだけ自分にとって幸福なのか。
他に伝える方法がわからないから、閃は正守の耳元に唇を寄せてささやいた。
「――いて、下さい」
これには正守も驚いたような様子が伝わってくる。やはり少し赤裸々すぎたか。でも。
「俺、頭領とこうしているの、本当に好きです。だから、抱いて下さい」
今度ははっきりと単語を区切るように告げると、正守がはぁ、とため息をついた。何か不興を買ったのかと思ったがそうではなかった。
「あー、今日くらいは我慢するつもりだったんだけどなあ」
「いっ、嫌なら別にっ」
はじかれたように肩口から顔を上げると正守の照れたような困ったような顔が見えた。
「嫌じゃない、というかむしろ積極的にしたいけど、今日こんな話をしたばっかりで、いいのか。本当に」
「はい。お願いします」
早く対等になりたい。正守から求められるのを待つだけでなく、自分からも思いを伝えることができるように。
それができただけで、今日という日は無駄じゃなかったと思える。
正守の手が閃の背中からシャツの内側へ入り込んでくると、閃もまた正守の着物の紐に手をかけた。翡葉さんや秀へのいいわけは、また後で考えよう、そう思いながら、今は目の前の快感に全てを投げ出す決意を固めた閃だった。
<終>