ある一日
皆まで言わせずに、目を丸くしている正守の唇に自分の唇を押し当てる。驚く気配から瞳を閉じて、何度か角度を変えながらひたむきに重ね続けた。そうこうしている間に正守が問いかけるように閃の唇の割れ目を舌でなぞる。その舌を追いかけるように自らのそれを絡めると、とろけるような時間がやってくる。
「あ……ぅ」
唇を離されそうになって、つい鼻を鳴らしてしまう。不満の声は置き去りに、正守は閃から体を離してしまった。が、すぐに抱き返してきた。きつく、けれど優しく。
「頭領、俺……」
「……悪かった。言わなくても、もういいから」
その声音と表情で確信する――わかってくれた。
自分にとって正守の存在がどれだけ特別か。正守は閃の考えていることなんかすぐにわかると豪語する割に、今回のように時折それをわかっていない時があるようなのだ。忘れてしまう、のかもしれない。なら何度でも伝えるだけだ。
「やっぱり、言葉にしてもいいですか」
「うん」
「頭領とこうしているのは、好きです。抱かれるのはもっと好きだし、でも一緒にいるだけでも不満はないんです」
「おまえ、無欲なのか欲深いのかわからないね」
「自分でもわかりません。でも本当の気持ちです」
まっすぐ正守を見ると、正守が自らの目元を手のひらで隠して降参、とつぶやいた。
「ごめん閃、俺我慢できないかも」
「はい?」
「この後時間ある?二人だけになれるところに行かない?」
それが意味するところは閃も理解した。途端にクスリと笑いがこぼれる。
「鯛焼き持ってですか」
「嫌?」
「頭領らしいと思います――嫌じゃないです」
むしろ好きです、という言葉を飲み込むと、それを知っているかのように正守が閃を両腕で抱き、背中に手を回す。
しっかりとした腕に抱き止められ肩口に顔を埋めると、ほのかに甘くていい香りがした。
<終>