マゴノック・アオミタ・イーヨ<後編>
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなわけで、その後もザンザスは暴れに暴れたのだが。
さすがは老いても、もう一方は反吐が出るほど甘くとも、ドン・ボンゴレコンビだ。
ザンザスの放った炎弾も『死ぬ気のゼロ地点突破・ファーストエディション』なんぞというトンデモ技で封じられ、改めて心底凍り付くような笑顔で九代目に『お願い』されたザンザスはしぶしぶツナヨシ(こちらは無駄にやる気の様子だが)と裏山くんだりまで来たのだった。
ザクザクと雪道を踏み分け二人は進む。
あたりはシンと静まり返り、聞こえるものは自分たちの足音と息づかいのみ。
「いやーもうさ、ツッコむ気力もないんだけど。『ウラ山』の範疇越えてるよね、これ」
呆れを多分に含んで、ツナヨシはぐるりとあたりの景色を見回す。
見渡す限り連なる山々、それがすべてボンゴレ九代目の所有地というだから恐れ入る。
もはや山というより『山脈』といった方が正しい。
どこの世界に山脈を所有する個人がいるというのか。その広大な山裾に、ボスの座を引退した九代目は屋敷を構え、隠居暮らしを楽しんでいるのだった。
それはさておき。
「あ、ウサギ!ザンザス、今の見た?!ウサギが跳ねてったよ。あーかわいいーかわいいーよー探したらもっといるかな?」
琥珀色の瞳をうっとりと緩ませて、ふにゃりと呑気に笑うこいつは、まだあのクソジジィの厄介さがわかっていない。
隠居暮らしはよっぽど暇らしく、ジジィは毎日のようにメールを送りつけてくる。
着信拒否にしようが、携帯を変えようが、数時間後には新たな携帯に「つれない」だの「寂しい」だの非難めいたメールなり電話がかかってくる始末だ。応急処置にすらなってない。
―――――非常にウザイ。
今回も、『久しぶりに顔を見せに来なさい』『紹介したい女性がいるから遊びにおいで』などとのメール攻撃から始まった。
無視し続けていると、さすがに業を煮やしたのかジジィは最終兵器を持ち出してきやがったのだ。先刻送りつけられたメールには、とある画像ファイルが添付されていた。
過去、ジジィを敬愛ともいえる感情で慕っていた時分の画像である。一時の気の迷いとはいえ、即刻かっ消してしまいたい汚点だ。
最後通告を突きつけた九代目に、非常に不本意ながらザンザスはしぶしぶ出頭したのだった。
「ちっ」
まったくもって面白くないし、面倒で鬱陶しい。もともと人に合わせるだとか、労る、ましてや言うことをきくような性格ではない。よって、現状すべてが気に入らない。
あのジジィ踊らされる気は、さらさらない。
ふと山の下方へ視線をやれば、木立に囲まれた九代目の屋敷が見えた。
いっそのこと、ここから手持ちの銃弾全てを撃ち込んで、焼き尽くしてしまおうか。
身の内を焦がす怒りにザンザスは銃を取り出した。
内なる獣が吠える声に従い、トリガーに指をかけたが。その瞬間、ツナヨシの懐から軽快なメロディが静かな雪山に鳴り響いた。
――――携帯の着信音である。
盛大に気がそがれた彼は、ジロリと無言で元凶を睨み付ける。
「あ、九代目からメールだ。えと、『そんなことをしてもバックアップはとってあるから、無駄だよ。大人しくしなさい。ヒント:山頂付近に行けばわかるよ』だって。バックアップって、どういう意味だろ。ザンザスわかる?」
「・・・るせぇ!」
あのクソジジィのことだ、おおかた双眼鏡か何かで覗いてやがるのだろう。ザンザスの怒りはますます沸騰するが、いやそれよりも、このドカスはいつの間にジジィとメールなんぞやりとりする間柄になっているのか。
――――癪に障る。まったくもって、気に入らない。
腹の虫がおさまらないザンザスは苛立ち紛れにとりあえず一発、ツナヨシに銃弾をぶち込んだ。
「ふぎゃ!」
だがこの至近距離で咄嗟にかわすとは、さすがにボンゴレ十代目といったところか。本人自体は至って、呑気で、臆病で、甘くとも、その身に宿る血と炎は伊達ではない。
機嫌最悪のザンザスはここぞとばかりに、銃弾を連射。さすがに雪山を背後にバーストモードは使っていないが、完全な八つ当たりだ。
「ちょ、マジで当たる!やめろって!ザンザス」
ドカドカと銃弾に追い立てられ、ツナヨシは慌てて山道を駆け上ったのだった。
そうして、退屈しのぎと鬱憤の発散をかねて、ツナヨシを追い立てて雪道を登ることしばし。山の中腹を過ぎたあたりで、急に雲行きが怪しくなってきた。
雪がちらついたと思ったら、見る間に視界は白一色。おまけに吹雪に見舞われて、日も暮れたとあってはマゴノック・アオミタ・イーヨの捜索どことではない。
あっという間に来た道も見失い、―――二人は遭難したのである。
そんなわけで、その後もザンザスは暴れに暴れたのだが。
さすがは老いても、もう一方は反吐が出るほど甘くとも、ドン・ボンゴレコンビだ。
ザンザスの放った炎弾も『死ぬ気のゼロ地点突破・ファーストエディション』なんぞというトンデモ技で封じられ、改めて心底凍り付くような笑顔で九代目に『お願い』されたザンザスはしぶしぶツナヨシ(こちらは無駄にやる気の様子だが)と裏山くんだりまで来たのだった。
ザクザクと雪道を踏み分け二人は進む。
あたりはシンと静まり返り、聞こえるものは自分たちの足音と息づかいのみ。
「いやーもうさ、ツッコむ気力もないんだけど。『ウラ山』の範疇越えてるよね、これ」
呆れを多分に含んで、ツナヨシはぐるりとあたりの景色を見回す。
見渡す限り連なる山々、それがすべてボンゴレ九代目の所有地というだから恐れ入る。
もはや山というより『山脈』といった方が正しい。
どこの世界に山脈を所有する個人がいるというのか。その広大な山裾に、ボスの座を引退した九代目は屋敷を構え、隠居暮らしを楽しんでいるのだった。
それはさておき。
「あ、ウサギ!ザンザス、今の見た?!ウサギが跳ねてったよ。あーかわいいーかわいいーよー探したらもっといるかな?」
琥珀色の瞳をうっとりと緩ませて、ふにゃりと呑気に笑うこいつは、まだあのクソジジィの厄介さがわかっていない。
隠居暮らしはよっぽど暇らしく、ジジィは毎日のようにメールを送りつけてくる。
着信拒否にしようが、携帯を変えようが、数時間後には新たな携帯に「つれない」だの「寂しい」だの非難めいたメールなり電話がかかってくる始末だ。応急処置にすらなってない。
―――――非常にウザイ。
今回も、『久しぶりに顔を見せに来なさい』『紹介したい女性がいるから遊びにおいで』などとのメール攻撃から始まった。
無視し続けていると、さすがに業を煮やしたのかジジィは最終兵器を持ち出してきやがったのだ。先刻送りつけられたメールには、とある画像ファイルが添付されていた。
過去、ジジィを敬愛ともいえる感情で慕っていた時分の画像である。一時の気の迷いとはいえ、即刻かっ消してしまいたい汚点だ。
最後通告を突きつけた九代目に、非常に不本意ながらザンザスはしぶしぶ出頭したのだった。
「ちっ」
まったくもって面白くないし、面倒で鬱陶しい。もともと人に合わせるだとか、労る、ましてや言うことをきくような性格ではない。よって、現状すべてが気に入らない。
あのジジィ踊らされる気は、さらさらない。
ふと山の下方へ視線をやれば、木立に囲まれた九代目の屋敷が見えた。
いっそのこと、ここから手持ちの銃弾全てを撃ち込んで、焼き尽くしてしまおうか。
身の内を焦がす怒りにザンザスは銃を取り出した。
内なる獣が吠える声に従い、トリガーに指をかけたが。その瞬間、ツナヨシの懐から軽快なメロディが静かな雪山に鳴り響いた。
――――携帯の着信音である。
盛大に気がそがれた彼は、ジロリと無言で元凶を睨み付ける。
「あ、九代目からメールだ。えと、『そんなことをしてもバックアップはとってあるから、無駄だよ。大人しくしなさい。ヒント:山頂付近に行けばわかるよ』だって。バックアップって、どういう意味だろ。ザンザスわかる?」
「・・・るせぇ!」
あのクソジジィのことだ、おおかた双眼鏡か何かで覗いてやがるのだろう。ザンザスの怒りはますます沸騰するが、いやそれよりも、このドカスはいつの間にジジィとメールなんぞやりとりする間柄になっているのか。
――――癪に障る。まったくもって、気に入らない。
腹の虫がおさまらないザンザスは苛立ち紛れにとりあえず一発、ツナヨシに銃弾をぶち込んだ。
「ふぎゃ!」
だがこの至近距離で咄嗟にかわすとは、さすがにボンゴレ十代目といったところか。本人自体は至って、呑気で、臆病で、甘くとも、その身に宿る血と炎は伊達ではない。
機嫌最悪のザンザスはここぞとばかりに、銃弾を連射。さすがに雪山を背後にバーストモードは使っていないが、完全な八つ当たりだ。
「ちょ、マジで当たる!やめろって!ザンザス」
ドカドカと銃弾に追い立てられ、ツナヨシは慌てて山道を駆け上ったのだった。
そうして、退屈しのぎと鬱憤の発散をかねて、ツナヨシを追い立てて雪道を登ることしばし。山の中腹を過ぎたあたりで、急に雲行きが怪しくなってきた。
雪がちらついたと思ったら、見る間に視界は白一色。おまけに吹雪に見舞われて、日も暮れたとあってはマゴノック・アオミタ・イーヨの捜索どことではない。
あっという間に来た道も見失い、―――二人は遭難したのである。
作品名:マゴノック・アオミタ・イーヨ<後編> 作家名:きみこいし