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[童話風ギルエリ]狼と馬のお話

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 むかしむかし、あるところに、旅をする狼と馬がおりました。
 狼の名はギルベルト、馬の名はエリザベータ。
 ギルベルトは騎士の身分から野盗に落ちたならず者、エリザベータは戦いに敗れて落ちのびてきた流れ者でした。
 二人は羊飼いの丘で出会い、この先ずっとの旅の道連れとして約束を交わしておりました。

 羊飼いの丘を後にした二人は、遠く離れた町を目指して歩き続けていました。
 エリザベータは時折歌を歌い、子羊とくるくる回って見せたり、ギルベルトに悪戯をしかけてみたりと落ちつきません。ギルベルトはエリザベータのそんな様子をからかっては意地悪に笑い、エリザベータが怒ると優しく笑いました。
「ギルベルトは意地悪だと思うの」
「そうか」
「どうして私の見てない時に笑うの」
 ギルベルトは顔をそむけて笑うと、エリザベータの手を取ってしっかり握ってやりました。
 エリザベータはつないだ手を握り返して、その肩に寄り添いました。
 羊飼いの丘から二人を慕ってついてきた子羊と、合わせて三匹の旅は穏やかに続いていましたが、エリザベータにはひとつだけまだ気がかりなことがありました。
 旅に出た日の約束に反して、エリザベータとギルベルトは、いまだ夫婦になっていないのでした。
 それは些細な不安でしたが、エリザベータの胸にぽつんとひとつ染みを作っていました。

 もちろんギルベルトは、エリザベータを嫌っているわけではありませんでした。彼は、寄り添って寝息を立てるエリザベータに乱暴を働くことはできずにいたのです。
 エリザベータは彼が手にした、ただ一つ欲しかったもので、そして決して失いたくないものでした。
 厳しい戒律に縛り付けられた騎士として育ち、何の束縛もなく欲望のままに振る舞う盗賊となり、エリザベータと共にあることを選んでただの旅人となったギルベルトには、彼女を失わずに想いを遂げる術が皆目見当もつかないのでした。

 ぽつりと雨粒が頬に落ち、ギルベルトは曇り空を見上げました。
「雨だ」
「あら、じゃあ雨宿り先を探さなきゃ」
 エリザベータは道を外れて木立へ歩き出しました。
「ギルベルト、きっといいことがあるわよ。空から一番最初に落ちてきた雨粒は、神様からの贈り物なんですって」
 ギルベルトは笑いました。面倒で鬱陶しい雨が、エリザベータの言葉ひとつで幸福の種に変わるこういう瞬間を、彼は何物にも代えがたいと思っていました。
 二人は並んで木立に入り、小さな洞窟に火を起こしました。
 ささやかな食事を済ませて、子羊を木陰につなぐと、ちょうど日も傾いてくるところでした。
 次の町までどう食いつなぐか、二人は話し合い、夜が明けたら狩りに出ることに決めました。ギルベルトが薄い毛布と拾い集めた乾いた落ち葉で寝床を整える間、エリザベータは焚き付けに使う小枝を探して外へ出ました。
 エリザベータは雨よけにマントをすっぽり被ると、足を伸ばして周囲を探索することにしました。
 町に着けば、持ち物と交換に少し食べ物が分けてもらえるかもしれないし、歩いているうちに食べられるものが見つかれば、自分より体の大きなギルベルトが空腹に苛まれなくて済むとエリザベータは考えました。
 振り返って目を凝らして、ようやっと洞窟のたき火がちらちらと見える程度になるまで歩くと、エリザベータは野いちごを見つけました。
「ねえ、あなたはとびきり甘いいちごかしら。すっぱいいちごかしら。どちら? どちらでもきっとギルベルトの見たことのない顔が見られるわ」
 エリザベータは草原の娘たちが羊を追う時に歌う歌を口ずさみながら、マントを脱いで野いちごをスカートの前掛けいっぱいに摘み始めました。
 その時、洞窟のたき火とは違うもう一つの明かりがゆらゆらと漂っているのが見えました。
「誰かいるのですか」
 漂いながら近づいてきた明かりがエリザベータを照らしました。
 問いかける声はギルベルトと同じ言葉で、違う人の声でした。
 エリザベータは瞬いて、ランプを持ち上げる男性を見つめました。
「驚いた・・・こんなところに女性がいるなんて」
 エリザベータをしげしげと眺めて、金属性のメガネを掛け直すと、男性は困ったように笑いました。
「どうやらあなたは私と違って迷子ではないようですね」
「あら、道に迷ったんですか?」
 エリザベータはかがんで前掛けをはずし、手早く野いちごを包みなおしました。
「ええ、恥ずかしながら」
「道まで案内しましょう」
 エリザベータは男性の先に立って歩き出しました。
「お待ちなさい、いえ、待ってください」
 咳払いをして、男性は早足にエリザベータを追い抜きました。
「私はローデリヒと言います。この先の町に滞在している騎士団の者です。怪しい者ではありませんが、こんな夜に女性が男性に背を見せて歩いてはいけません。先に行きますから道を教えてください」
 エリザベータはくすくす笑いました。
「笑い事ではありません。世の中、騎士に見えても中身は盗賊紛いの輩もおりますからね」
 ローデリヒは深いため息をつきました。
「それならば、私も村娘のようでいて腕に覚えのある剣士かもしれませんよ」
 エリザベータが笑うと、ローデリヒはつられて笑いました。
「では、悪さを働くのはよしましょう」
「ええ。それに、ここからはすぐ道に出られますもの」
 エリザベータは馬車道までローデリヒを案内して、町の明かりを指さしました。
「ああ、これでやっと帰れます。感謝します・・・ええと」
 ローデリヒが名前を尋ねようと声をかけた時には、エリザベータはもう森へと消えてゆくところでした。
「私は」
 長い髪をなびかせて振り返り、少し考えてからエリザベータは言いました。
「・・・狼の妻です」
 そして、一世一代のいたずらが成功した子供のようにくすぐったそうに笑って、軽やかに駆けて行きました。

***

 野いちごの包みを抱えて目を輝かせたエリザベータが洞窟へ駆け戻って来たのはその少し後でした。
「ずいぶん遠出したんだな」
 待っていたギルベルトの腕に身を投げかけると、エリザベータは鈴を転がすように笑いました。
「あなたの妻ですって言ってきたの」
「ん?」
 野いちごの包みを受け取り、エリザベータの体を抱き止めたギルベルトが不思議そうな顔をするので、エリザベータはますます頬を薔薇色に染めて笑うのでした。
 森で出会った迷子の騎士の話を聞きながら、ギルベルトは野いちごの包みをほどきました。それからふと、まだうれしそうにしているエリザベータを振り返りました。
「エリザベータ、リボンはどうした?」
 寝る支度をしていたエリザベータは首を傾げて髪を探り、それからあっと声を上げました。
「帰りにどこかに引っかけちゃったかしら」
 異国の特徴的な刺繍の入った古いリボンは、エリザベータが旅に出る時から身につけていた唯一の持ち物でした。
「そうか、じゃあ明日、狩りに出ながら探すか」
 何の気なしにギルベルトが言うと、エリザベータは喜んでギルベルトに何度も礼を言いました。