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[童話風ギルエリ]狼と馬のお話

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 騎士たちが仕える西の国は、東の国と戦うための理由を欲しがっているのでした。
 東の国に最後まで立ち向かおうとして、騎士たちに応援を求めた勇敢な姫君が、戦いを望まず落ち延びていることが表沙汰になれば、草原の国の支援を理由に東の国と戦う理由がなくなってしまうのです。
「草原の国を守るために、最後の王族であるエリザベータ姫を保護するのです」
 ローデリヒは冷たく言い、剣を抜きました。
「逆賊として果てるか、騎士の名誉を回復して褒美を得るか、お選びなさい、ギルベルト」
 そして剣を振りおろしました。
「やめて!」
 エリザベータが二人の間に割って入ろうとします。  
 応じて剣を抜けば逆賊、エリザベータを差し出せば栄光の騎士。
 けれどもギルベルトは迷いませんでした。
 剣を抜かず、妻を抱きしめてその身をかばおうと自分の体を投げ出したのです。
 
 一瞬のことでした。

 ぶつりと小さな音がして、エリザベータの髪がひらひらと床に落ちました。
 体を起こしたギルベルトの前で、ローデリヒは切り取った一房の髪をタバコ入れに入れるとぱちんと蓋をしました。
「ギル」
 震える声でエリザベータが呼ぶのに応えて、ギルベルトは妻の手を握りました。
「草原の姫君は、先発の騎士団がお守りしたが、残念なことに旅先にて病で亡くなられました」
 ローデリヒは周りの騎士たちに告げるように静かに声を張りました。
「最後まで姫君にお仕えしたギルベルトも負傷によって騎士の任を解かれました」
 ポケットから小さな皮袋を取り出すと、ローデリヒはそれをギルベルトに渡しました。
「騎士ギルベルトのこれまでの功績に報酬を与えて、我々の任務を終了とします」
 騎士たちは剣を収めると、静かに酒場を出ていきました。
「ローデリヒさん」
 エリザベータは呼びましたが、誰も振り返る者はありませんでした。
 
 後に残ったのは、姫君と騎士ではなく、狼と馬ですらない、エリザベータとギルベルトただ二人でした。
 
***

 エリザベータとギルベルトは、騎士団を見送ってから別の道を歩き出しました。
 子羊が草を食べ食べ先にゆき、エリザベータがそれを追うのを眺めながら、ギルベルトはローデリヒに渡された皮袋を開けました。
「エリザ」
 呼ぶと、子羊を捕まえて抱いたエリザベータが立ち止まります。

 皮袋には指輪がひとつ入っておりました。
 くすんだ金の輪に施された彫刻はエリザベータのリボンと同じ模様で、その台座には彼女の瞳と同じ色の石がはめ込まれていました。
「母の指輪だわ。羊飼いの丘に着くまでに売ってしまったのに」
「手を出せ。右だ」
 エリザベータの手を取ると、ギルベルトは妻の指に指輪を填めました。
「右手なの?」
 エリザベータに見つめられて、ギルベルトは恥ずかしそうに目を逸らしました。
「俺の育ったところでは右なんだ」
 途端に顔を輝かせたエリザベータが飛びついて、二人はきつく抱き合いました。
 陽の光の下、隠すことも偽ることからも解放された二人は今、幸せな一組の夫婦でありました。




 昔々、あるところに、狼と馬がおりました。
 狼と馬はとある山あいの小さな村で、連れ添って静かに暮らしておりました。
 どの物語にも語られず、誰の記録にも残されず、それほどに静かに、そして幸せに、二人は寄り添って暮らしていったのでありましょう。
 
 
 
fin