シュラバンチュール
最初から判り切っていた事だった。
彼に対して節操や誠実さを求めてはいけない事は、出会ったときから自分に言い聞かせていたはずだった。さっき西と言っていたと思えば次には東と言っているような、そして彼を盲目的に慕っている信者と呼んでも間違いではない人たちをゲームの駒のように扱っている人間なのだから。
僕は嬉しかったのだ。非日常に憧れている僕は彼から漂う荒唐無稽の雰囲気が。そんな彼が僕に唯一君だけだと言ってくれるのが。
そしてまた不安で仕方がなかった。いつかは彼が飽きて僕と別れる、捨てるという事実が必ず訪れるということを。それがいつ訪れるのかを。
心の何処かではそんな風に彼を信用していなかったはずなのに、いざその事実に対面するとやはりどうしようもなく傷ついてしまうのであった。僕は愛されているはずと勝手に自惚れていたのだ。彼に翻弄されてしまう自分が悔しかった。
彼が女性と歩いている場面を、僕は何回も見てきた。普段は人の気配に敏感な彼はその時に限って僕には気付かない。僕に対しての嫌がらせなのだろうか。それとも実は気付いていて、反応を確かめて居るのか。その度に仕方がないと諦めていた。仕事の事情かもしれないし、彼の人間観察の一環だと、自分に言い聞かせるのだ。彼の前では顔には出さず、悟られないように。プライドを守り切るのだ。彼の目に届かないところでは、胸が張り裂けるような痛みがはしっても、瞳から熱い滴がつたっていたとしても。
きっかけは何かはわからない。自分の中で「あぁ、終わりだな」と感じた。このままの関係を続けていたら着実に僕の中で何かが壊れてしまう気がする。彼に別れを告げても、きっとそれは人間観察の一部で、まるでなかった事のようにまた彼は生活していくのだろう。ならば僕のこの自分勝手な感情を早く捨てて楽になってしまいたい。