シュラバンチュール
03:40
そういえば彼は、さよならといったけど別れようとは言わなかった。
彼は怒っていたのだろうか。悲しんでいたのだろうか。
さよならと言って出て行った彼の顔は無表情だった。疲労と諦念だけが微かに窺えた。
何に対してそれらが向いているのか疑問に思った。
今まで交際してきた、いや交際と呼べるのかもわからない関係をもった人間たちは俺の浮気には気付かなかったことも思い出す。
あれこれ考えている内に、彼は、俺が目にした人間たちよりも規格外なことを仕出かしてくれているなと思い、自然と口角が上がる。
こんなにも俺を動揺させておいて彼が何も感情を出さないとは、なんだか悔しい話ではないか。
ベッドの中で寝返りをうつ。
そうだ、また彼に会いに行かなくては。俺たちはまだ別れてはいないのだし、別に変なことではないではないか。
俺が帝人君に意図的に隠している情報を与えたというのなら、逆に帝人君が俺に隠している情報を教えて貰おう。その無表情の奥に燻ぶっているだろう感情が知りたい。
あんな一方的な別れ方なんて、別れとはいえないはずだ。自己完結で終わってしまっては困る。
仕事の時間が空いたら、彼に会いに行こうと考えているうちにさっきまでの憂鬱な気分は何処かへ行ってしまっていた。気が緩んだのか眠気がようやくやってきたようだ。
まどろみの中で、なんでばれたのかなぁ、なんてことと、浮気はもう止めにしようと決意して意識を手放した。